主人公である奥崎謙三が
ミカンを人に見立て
軍隊での処刑の様子を説明するとき
“こたつでミカン”とは、なんとも日本的で穏やかな風景ですよね。だけど、そのミカンを使って説明されるのは、太平洋戦争下に日本軍の内部で起きた処刑事件の一部始終、とかなりギャップがある。さらにこの真相を知るべく当時の関係者を訪ねて回る主人公、奥崎謙三がまたエキセントリックで。

このシーンでも、処刑された人の遺族“役”として2人を同行させたり、しかもその1人は奥崎の妻だったり。可笑しいほどの卑近さがある一方で、扱うテーマは戦争犯罪とかなり大きい。このアンバランスさこそがそのまま戦後日本のいびつさを象徴しているように思います。
時に倫理を踏み外し、極限の状態に置かれる戦争での出来事を、この関係者たちは聞かれることも話すこともなくじっと胸にしまって過ごしてきた。そうしてなんとなく平和に流れる日常に、奥崎というある種のトリックスターが亀裂を生じさせていくさまは、日本社会に対するショック療法ともいえるかも。
ちなみに原監督が制作の裏側を綴った『ドキュメント ゆきゆきて、神軍』もぜひ。撮影をコントロールしようとする奥崎との攻防や、幻となったニューギニア編の顚末など本作をより深く味わうためのエピソード満載です。
