借金の返済日に金策が尽きた理事長が
監督に土下座して
借金を申し込んだとき
まずこの理事長が非常に面白い人物なんですけど、資金繰りに困った彼が、土下座して監督に借金を申し込むシーンで完全にノックアウトされました。
突然のことなので、それまで理事長を撮っていたカメラマンが「ここは監督に振るべきなのか?」と困惑している……その心の動きがそのまま映像に表れているのがまず面白い。

もう一つ、「自分がこれをやられたらどうするだろう?」と、ドキュメンタリーの作り手として考えさせられもしました。結局、監督はお金を貸さないんです。でもそれが正解かどうかはわからない。
ピュリツァー賞を取った「ハゲワシと少女」という有名な写真がありますが、少女を助けなかったことを世界中から非難され、受賞後にそのカメラマンは自殺しています。「撮影対象を助けるべきなのか?」というのは、作り手が常に抱える「答えのない問い」なんです。
「作り手が完璧に良い人だとドキュメンタリーは作れない」と感じることは時々あります。でも「ドキュメンタリーを作っている人間は悪人だ」と開き直るのも嫌なんです。その両方の間で揺れていたい。このシーンはその問いと揺れが表れた名場面だと思います。
