二郎以上に融通無碍、新たな解釈で創造するそれがインスパイア
ラーメン界に“二郎”というジャンルまで確立し、ジロリアンなる熱狂的ファンも生み出した〈ラーメン二郎〉。孤高の人気を誇る一方で、そのDNAを進化させ、本家をしのぐ個性と新たな味でファンを魅了するインスパイア系の存在も。ならば聞こう、ジロリアンたちをも虜にするインスパイア系の魅力を!そして、一杯の中に注がれた店主たちの二郎哲学を!
経済学者の牧田幸裕さん、アートディレクターの秋山具義さん、自らトークライブ『ジロリアンナイト』を主催するお笑い芸人、しずる・村上純さんによるジロリアン座談会第2弾の開幕です。インスパイアな一杯「パ郎」を味わいながら、熱く語ります!
牧田幸裕
二郎は2000年以降のラーメン界に一つのムーブメントを作りましたよね。
秋山具義
ダブルスープの登場で、“青葉系”とか“青葉インスパイア系”なんていうムーブメントもありましたが、二郎ほどデフォルメしやすいジャンルはなかったと思う。
牧田
一言でインスパイア系と言っても、その中でかなり細かく分類される。“富士丸系”や“526系”のように、二郎の直系で修業した店主が独立して始めた店もあれば、自分の店の味を持ちながらそこに二郎のテイストを加えた店、あるいは、二郎という存在のインパクトを独自の解釈で表現した、まったく新しい感覚のものまで、成り立ちもスタイルも実に多彩なんですよ。
村上純
インスパイア系の広がりは、ネットメディアの影響も大きいですよね。テキストベースの2ちゃんねるから始まり、ブログで写真が見られるようになり、ツイッターやフェイスブックでその普及力が加速した。二郎って、言葉では説明できないものだから、あのインパクトはビジュアルを見せるのが一番。二郎の写真をツイッターで上げた時のリツイート数ってハンパないですもん。
牧田
それほどの反響を見せられたら追随者が続出するのもわかる。
村上
これまでいろんな二郎インスパイアを食べてきたんですが、ある時、『レッドカーペット』に出てる芸人と同じだなぁと思ったんです。1分間ほどのネタを披露し終わると、そのままベルトコンベヤーに乗せられて画面から消えていくあの番組。
知名度を上げるために番組やマスメディアに迎合したネタでこのカーペット上だけの世界で終わるのか、よりとんがったネタで次のステージへ勝負しにいくのか。開店しては消えていく数々の二郎インスパイアの店に、自分の芸人としての姿が重なってしまったんです。
秋山
深いねぇ。二郎インスパイアって、ただ二郎を真似るという意味じゃないよね。
牧田
おっしゃる通りです。そもそも二郎は特定の顧客のニーズを満たすためだけの存在だったわけですから、元二郎でない限り、ちょっと味を似せたくらいじゃ二郎を愛する者にはまったく響かないんですよ。〈まとや〉の「まきフン」のように、本家を超えるくらいのフックがないと生き残れない。
秋山
もはや二郎とは何の関係もない飛躍の仕方だけど(笑)、インスパイアは、とにかく進化し続けていますよね。
村上
武道における「守破離(しゅはり)」の精神と同じ。時代に迎合せず、失敗を恐れず、己の道を貫く。大切なことは、すべて二郎が教えてくれるんですよ。
一杯の中に込められた、店主の二郎哲学と対峙する
牧田
自分の信じる二郎をひたすら追求する直球ど真ん中系も、どこまでも盛りの限界に挑戦する一点豪華主義も、いずれのスタイルも店主が信じる二郎という哲学を形にしたものにほかならない。
秋山
盛り増し系の解釈は結構出揃ったし、その反動で、引き算しまくるシンプルにシフトした店が現れても面白いよね。スープと麺だけの素二郎とか。
村上
ブタ×白飯っていうのもいいかも。あの豚で白飯食べたい!って、いつも思うんですよね。
秋山
スープをちょっとだけかけたりしてね(笑)。
村上
いいですねぇ。インスパイアって、丼を通して店主と対話しているような気持ちになるんですよね。あなたの解釈はこう来ますか!って。この無言の対話こそ、インスパイアの醍醐味でもある。
異空間で二郎を味わう、というロマン
牧田
全国へのインスパイアの広がりも見逃せませんよね。北は北海道から南は沖縄まで、ほぼ全県に存在するんじゃないかな。こんなところで二郎を体験できちゃうの⁉っていう意外性や空間の面白さもありますよね。上信越道の東部湯の丸SAに「小二郎ラーメン」っていうメニューがあるんですよ。サービスエリアで二郎が体験できちゃうなんて、すごいワクワク感です。
村上
日本最南端のインスパイア系といわれる沖縄の〈(麺道)くろとん〉に行ったことがあるんですが、隣ではのんびり沖縄の方言が飛び交って、子供がキャッキャはしゃいだりしてる。二郎とは本来試合ですから、最高の緊張感が漂う店内で、脂ギトギトになりながらせわしなく食べるもの。南の島でのどかに二郎なんて、超非日常ですよ。そんな世界観に、ロマンを感じるんですよねぇ。
牧田
地方の町に根ざしたインスパイアって、なんか少しほっこりするんですよね。
村上
二郎が競技ゴルフなら、インスパイアは休日のファンゴルフみたいなもんです。
秋山
二郎が本妻なら、インスパイアは愛人や彼女ってところですね。つまるところ、インスパイアは二郎とはまったく別の感覚で楽しむもの。帰る家があるからこそ、たまに味わいたくなるんです。
牧田
ちなみに〈夢を語れ〉は、この秋ボストンに出店するらしいですよ。いよいよ二郎もグローバル時代に突入かもしれませんね。
秋山
アメリカ人が食いつきそうですねぇ。〈26NY〉とか、ちょっと洒落た感じにしてね。アニメ、コスプレの次に日本のコンテンツで世界を制するのは二郎かもね。そのうち、二郎エキスポとか開催されちゃうんじゃない⁉
村上
だいたい今日のお店もおかしいですよ。カラオケで二郎なんて、エンターテインメント増し増しじゃないですか!
秋山
これだけ密閉された空間で食べる二郎のニンニク臭といったらハンパないですよ。
村上
次に来る人のことを気にせず、ニンニク臭くても全然OK!っていう、店長の心意気がロマンですよねぇ。
インスパイア系の類型図
一括(ひとくく)りにインスパイア系といっても、成り立ちやスタイル、味の違いで好みにうるさいジロリアンたちの多様なニーズに応えている。縦軸は味を、横軸はビジュアルや盛りのバランスを表し、下記のように分類できる。
笑撃の初体験⁉カラオケで二郎!
インスパイア系の進化は、味やビジュアルだけではない。カラオケ店〈パセラリゾーツお茶の水店〉(現在は閉店)は、「パ郎」なるインスパイア系ラーメンが食べられる、知る人ぞ知る一軒。
ジロリアンである店長の小林礼雄さんが、二郎を愛しすぎて作ってしまったというこちらのメニュー。麺はインスパイア系ではおなじみの菅野製麺所のものを使用。軽く乳化したスープに、山盛りのキャベツ&モヤシ。改良に改良を重ねたというジューシーで肉厚なブタが、ギトギトの脂をまとって丼に誇らしく鎮座。味も見た目も文句なしのインスパイア!
カラオケも座談会もそっちのけで、村上さん&秋山さんは丼にかぶりつき!