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〈BULY〉を育て上げたラムダンさん、今の時代にお店を作るのはなぜ?

日本でもよく知られる、総合美容専門店〈オフィシーヌ・ユニヴェルセル・ビュリー〉。そのブランドを成功に導いた実業家、ラムダン・トゥアミが昨年、パリのマレ地区に新しいコンセプトストアをオープンさせた。一財産を築き破天荒な人生を歩んできた彼に、なぜ今の時代にわざわざお店を開けるのか聞いた。

本記事は、BRUTUS「センスがいい仕事って?」(2025年2月15日発売)から特別公開中。詳しくはこちら

photo: Thomas Marroni / coordination: Ko Ueoka / interpretation: Lelia Sakai / text: Tamio Ogasawara

お金目当てではいい店にはならない。そのためにも僕は誰の意見も聞かない

「17歳の時に初めてTシャツやスエットを作って売り、20歳で友人とスケートボードブランドを立ち上げ、22歳でコンセプトストアをオープンさせました。環境は異なりますが、同じ年頃の僕の娘たちと比べると、よくやっていたと思うよ(笑)。ただ、それらはすべてうまくもいったし、うまくもいかなかった。最初に稼いだお金は、ギャングに誘拐されてすべてとられてしまったし、学校も辞め、親にも勘当され、流れ着いたパリの路上でホームレス生活を送るはめにもなった。コンセプトストアのパーティを船上で派手にやり、船を壊してしまったせいで破産も経験しましたからね」

実業家、ラムダン・トゥアミの事業で最も成功したのは、日本でもよく知られる、総合美容専門店〈オフィシーヌ・ユニヴェルセル・ビュリー〉だ。かの世界最大規模のラグジュアリーコングロマリット企業〈LVMH〉に事業を売却し、一財産を築いた彼のこれまでの経歴は、破天荒の一言に尽きる。思いついたらすぐ行動に移し、一から作り上げ、育て、その果実がいちばんおいしく実った頃に、躊躇なく事業を売却し、得た資金でまた次なる興味に向き合い、新しいものを生み出す。

自分が何者なのかが表現できるのが店である

「まるで子供のようですが、思いついたらすぐに動くのが私のやり方。お酒もたばこもやらないし、会食なんてのも時間の無駄。朝起きたら、もうやりたいことが頭の中に生まれているから、時間なんていくらあっても足らないんです。これまでに400店舗はデザインで関わり、そのうち120店舗は自ら手がけてきました。ショップという場所は、訪れれば、たとえ何も買わずとも、その店のストーリーをタダで持って帰れるものだと思う。

日本で言えば、〈エンダースキーマ〉や〈キャピタル〉といったブランドのショップには、遠くてもわざわざ行くし、行ったらそのブランドの哲学を知ることができる。もちろんプロダクトも買えるし、それぞれの店には社会的役割があるのだと思いますが、決して、お金儲けのためのものではなく、やりたいって気持ちと、自分が夢中になれるものがあって、それを表現する、自分の世界を作り出すってことが大切なこと。

店作りは究極のエゴイズムです。ゆえに店舗経営となると、朝から晩までひたすら考え続けなければならないものとなりますが、事業の責任は自分で取ればいいので、僕は誰の言うことも聞きません。ホームレス生活を経て、それまで見えなかったものが見えるようになったのもありますが、お金よりも、自分が何者かをわかってもらうことの方が大事だし、人生においてお金がすべてじゃないのは身をもってわかったから。そういった意味でも、大きな失敗をした経験がある人を僕は信用するし、明日、お金も家もこれまで手に入れてきたすべてのものがなくなっても、僕にとってはどうでもいいことなんです。またゼロから始めたらいいだけですからね」

ニューショップ〈WORDS, SOUNDS, COLORS & SHAPES〉の前のラムダン
ニューショップ〈WORDS,SOUNDS,COLORS & SHAPES〉の前で。ラムダンが仕掛けるプロジェクトがオールラインナップ。

店を出すことは、世の中へのレジスタンス

昨年、パリのマレ地区にラムダン氏の新しいコンセプトストア〈WORDS,SOUNDS,COLORS & SHAPES〉がオープンした。敬愛する日本のブランドを中心にセレクトされたアパレルに、山が好きなラムダン氏らしいアウトドアグッズ、日本各地で作った服が揃うオリジナルブランド〈DIE DREI BERGE〉が並び、カフェも併設。地下にはギャラリー、活版印刷のオーダー、ヴィンテージブックコーナーといった、現在の興味が丸ごと詰まった。

「作るものも、仕入れるものもすべて、現地まで足を運び、職人やデザイナーと対話して、自分の目で実際に見て決めます。当たり前だけどすごく重要なこと。自分が見て、ワォ!となったものなら、お客さんがそれを見てもワォ!ってなると思いますからね。日本人ならウォーかな(笑)。映画を観ても、本を読んでも、素敵な女性とすれ違ったり、美しい光を見るだけでもいい。一日に最低2、3回のワォという感情が肝要です。〈ビュリー〉のショップもそうで、みんなワォと言ってくれる。だから、この新しい店もそういう仕掛けをいっぱいにするべく、これからも変化し続けるので、店としての完成はありません。

今、考えているのは、〈コム デ ギャルソン〉や〈キャピタル〉など、僕が長年かけて集めてきた日本のブランドのヴィンテージを扱うブティックをこの店の中に作ろうとしています。ただ、完成された店という意味では、僕の中では2つある。一つは東京・青山の〈コム デ ギャルソン〉で、オープンした36年前から完璧でした。もう一つは、中村ヒロキさんの〈ビズビム〉で、いつでも同じスタンスを貫いています。90年代の〈ア ベイシング エイプ〉にもショックを受け、自信がまるでなくなって、少なくとも6ヵ月間は鬱になっていましたよ。100mを12秒で走っていたら、ウサイン・ボルトが出てきたみたいな状況だね。とにかく、いつの時代も店はそうあるべきだと思いませんか?

特に、今の時代は、なんでもオンラインで買えてしまうし、それ自体は悪いことではないけど、人との出会いとか体験とか予想外の興味ってところでは稀薄になる。ショップを出すこと自体が世の中の流れに逆らったレジスタンス的行為ですし、これは社会との接点が少なくなりつつある今の空虚な時代に対する僕なりの抵抗なんだ。そのためには、本物の“販売員”が必要になるし、店を中心に商店街のような信頼のコミュニティが築かれるのが理想となる。自分は自分を貫くだけ。少しでも立ち止まったら、やりたいことなんてあっという間にできなくなりますから」

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