ラフがフィレンツェに帰ってきた。2016年の6月に行われた第90回ピッティ・ウォモの大トリを飾ったのはラフ・シモンズだった。プレスリリースに「私にとってフィレンツェはずっと特別な場所」と書かれていたように、ラフとピッティの関係は深い。
今回、彼がピッティに参加するのは2001年に行われたジル・サンダーのコレクションを含めると、4度目になる。そして今回ラフが2017年SSコレクションの会場に選んだレオポルダ駅は、フィレンツェで一番歴史のある駅であり、そしてラフが2005年ブランドの10周年を記念したコレクションを発表した場所でもある。本人にとっても思い出深い場所だったはずだ。
開場は20:30。インダストリアルで無機質な構内では、ラフ・シモンズのアーカイブピースを着るマネキンが出迎える。50体近くあるマネキンや点滅する蛍光灯が無造作にインスタレーションされた会場に入るや否やジャーナリストやファッション関係者(前日にコレクションのプレゼンテーションを終えたゴーシャ・ラブチンスキーなどの姿もあった)がざわざわする。
しかし、そんなざわめきを耳にしながらも、バックステージでショーの準備をするラフは落ち着いていた。大勢のアシスタントたちがモデルに洋服を着用させる。そして、ランウェイに出る直前、ラフが一人一人を最終チェックしていく。
スカーフやアクセサリーの位置、オーバーサイズのシャツの肩の掛かり具合などを微調整。取材を嫌い、メディアの前ではあまり多くを語らないデザイナーとして有名なラフだが、洋服をチェックするときの鋭い眼差しが、モデルと目が合うと、わずかに緩んだ。
会場にクラウス・ノミの「ザ・コールド・ソング」が響き渡ると同時にラフはモデルたちを鼓舞しランウェイへ送り出した。シートのない会場は全員がスタンディングで観賞するスタイル。ビニールテープの線の内側をモデルたちが大勢の人の間を縫うように歩き、目の前を一瞬で通り過ぎていく。アメリカを代表する写真家のロバート・メープルソープのモノクロ作品と一緒に。
今回、ラフはロバート・メープルソープの写真をシャツやカットソー、そしてコートにまでプリントしたコレクションを発表した。セルフポートレート写真や、ガールフレンドだったパティ・スミスなどのアーティスト、スティルライフや男性器の写真など、さまざまだった。
「ギャラリーにロバートの作品を飾るつもりで、コレクションを構成したんだ。今回一番難しかったこと?ギャラリーで飾るような決まったフォーマットを無視して、ラフ・シモンズの世界観でどのように見せたらいいのか、かな」
まさにメープルソープの回顧展を見ているような気分だった。
「アーカイブを見せ、新作のデザインもして……早く休みをとりたいよ」と最後にラフは言った。
そしてピッティでのショーが終わった約2ヵ月後、カルバン・クラインのクリエイティブ・ディレクター就任のニュースが再びファッション業界をざわつかせた。