新譜に映画、立体的に浮き彫りになる、くるりというバンド
BRUTUS
今回またこの3人でやろうと思われたのはなぜですか。
佐藤征史
くるりってロックバンドだと思っていますけど、森さんが抜けてからは、バンド的な創作から離れて、オーケストラとか作り込まれた楽曲も増えてきた。それでもロックバンドという価値観は変わってなくて。それで、もともとのくるりのスタイルで久しぶりにやってみたいねという話はしていたんですね。
森信行
僕らって、どうしても3人集まるとセッションから始まることが多くて、くるりを抜けた後もライブに出ることはあって、リハとかやってても、必ずそういうことは起こっていた。今回は一段くらいギアの上がった状態でやれたのがすごく面白かったですね。
岸田繁
もともとこのメンバーで始めたものなので、これが基礎的な形というか。初期の「東京」や「ばらの花」は、今も特別だと思ってくれる方が多い。それは曲を書いた僕にとっても誇らしいし、この3人だから作れたという自負もある。
このバンドは3人で音を出してアイデアを作っていくバンドだから、歌はパズルみたいにその間を縫うように作っていく感覚なんですね。今回もそうやって作った結果、久しぶりに純粋な新曲だけの作品ができたんです。
BRUTUS
今回3人で合宿しての録音でしたが、伊豆という場所はいかがでしたか。
佐藤
レコーディング中、しんどくなった時に、山とか海に行けたというのはかなり良いことでした。そういうリセットできる環境含めて良かったと思います。
森
僕は山育ちだから、海が近いだけで上がるんです。魚がまあ旨いんです(笑)。今回無意識のうちに、海には影響を受けてるんじゃないかなと。
岸田
たぶんどこでやっても、それぞれの場所が楽曲や制作に与える影響というのはすごい大きいと思うんです。今回作ったのは都市型の音楽じゃなくて、海があるところで作った音楽というか、溶岩でできた大地の上で作った音楽というか。
都会は悪いわけじゃないんですが、情報が多すぎて。伊豆とかになると、音楽になるための太くて大きい情報がワッと入ってくるから、それを使ってやるみたいな感覚はあったかもしれませんね。
BRUTUS
そんなリラックスした環境で、くるりらしい新たな傑作が生まれたわけですが、改めて“らしさ”とは何でしょうか。
岸田
曲の数だけ、聴いてくれる方の数だけくるりらしさがあると思うんですけど、自分としては、やっぱり京都の大学の学生バンドというのが、たぶんくるりらしさの原点だと思います。
京都らしさとかは住んでいたらわからないんですけど、ちょっとした気候の感じとか、パッと空を見上げた時の景色とか、しゃべってる速度感とか、そういうものがすごい音楽に影響すると思います。
佐藤
京都に戻ってデパ地下とかで買い物をすると、ホンマに店員さんがしゃべるのがゆっくりなんですよ(笑)。時間の流れが変わるというか。それは音楽にも表れていると思います。単純に4分の曲でも自分たちの曲と、ほかのアーティストの4分とは、その中の過ごし方とか密度の濃さが全然違うというか。
僕は隙間があってほしいと思うし、そこに京都のタイム感というのが、知らず知らずのうちに入ってるんじゃないかなという気もしてます。
岸田
2人って、わりと自然が多いところの出身で、シティボーイって僕だけなんですよね(笑)。そう考えると、海が近い伊豆の雰囲気は今回合っていたのかもしれません。やっぱり、僕たちは、都会の音楽じゃないなって。僕、冗談でよくシティポップを否定するんですよ。
もちろん音楽としては好きなアーティストもいますけど、個人的にどういう時に聴いていいかよくわからない。そこで、シティポップの対義語って何だろと考えたことがあって。それは、オルタナ・カントリーじゃないかと。
伝統的なことをやってるわけではないので、オルタナはオルタナだけど、都会の音楽じゃないんだなと、改めて思います。