そもそも、知恵の輪って?
知恵の輪は、メカニカルパズル=立体的なパズルの一種である。ルービックキューブや組木細工もこのカテゴリーに含まれる。原始的なものにまで遡れば数千年の歴史があるとも言われるが、19世紀の欧米で大きなパズルブームが起こったことが、現在につながる大きな源流となっているようだ。
知恵の輪には、著作権が存在しないような古典的な仕掛けのものもあり、複数のメーカーが同じ形の商品を売っている例も多い。一方で、オリジナルのパズルを制作するクリエイターも存在する。中でも、ひときわ独創的な作品を30年にわたって生み出し続けているのが、メカニカルパズルデザイナーのアキオ・ヤマモトさんだ。
今回はアキオさんに、なぜ知恵の輪を作るようになったのか、どのような発想で複雑な立体パズルを制作しているのか、キャリアの最初期から遡って、話を聞いた。
作りたかったのは、空飛ぶ円盤?!
「高校生のときは、いつか空飛ぶ円盤をつくりたいと思っていたんですよ。でも目が悪かったから工学部に行けなかった。そういう時代だったんです。それで近いところをと探して、教育学部に入りました。美術コースで金工や工芸を学んだんです。卒業後は彫刻家のアシスタントをしていました。木、石、粘土と様々な素材を使っていましたね。
そんな時期に島根県の匹見町で『木のパズル・コンペティション』という、メカニカルパズルを作って競う大会がありました。子供のときから覆面算など主に数理パズルが好きだったこともあって、自分でもパズルを作ってみることにしたんです」
この作品が玩具メーカーの〈ハナヤマ〉の目に留まり、商品化が決定。改良を重ねて、現在も販売されている名作「はずる キャスト アムール」が誕生した。以来、パズルデザイナーとしての仕事を積み重ねていく。
「通常は、スタイルフォームという発泡スチロールのようなものを削り出して試作を重ね、最終的に図面に起こしています」
頭ではなくて手で考える
「はじめた頃は『マリンシリーズ』と題して海にまつわるメカニカルパズルを作っていました。2年で6作ほどになりましたが、今考えるとすごいハイペースなんです。アイデアが思い浮かんでも、商品になるのは1000に3つもないくらいですから」
作るときはなによりも遊ぶ人が楽しんでくれるものにしようと努めています。難しくしたりめんどくさくしたりするのは簡単なんです。でも『楽しい』とか『面白い』と感じるようにするのは難しい。そうするには、“頭”ではなくて“手”で考えることが大切。かちゃかちゃ触っていたら思いがけなく外れた、という驚きこそが『楽しい』ということだと思うんです」
創作はパズルピースになりきって
“手”で考えるために制作時に欠かせないのが「パズルピースになりきること」だという。その心は?
「頭と手は思考が違っているんです。頭で考えるには限界があるから、体を動かして作るんです。例えば『はずる キャスト ヴォルテックス』は阿修羅像をヒントにしています。6本の腕と3つの顔を持つ、あの像です。
6つの腕を組み合わせてパズルにできないか?と実際にその動きをやってみて探っていく。次第に、腕と手のひらの造形を活かせば形になっていくなとわかっていくんです」
コンピューターでも解けないパズルを
知恵の輪には、シンプルで無機質なデザインのものもあるが、ヤマモトさんの作品には丸みやボリュームを感じられるものが少なくない。そうした点から、海外では『有機的』を意味する「オーガニック・シェイパー」とも呼ばれているのだという。
「メカニカルパズルの解き方はひとつ。でも、答えの導きかたや形状の認識は人それぞれ。今のところコンピューターでも解けないと言われているし、私のパズルの解説動画を見てもわからないことさえあります(笑)。だからときには考えすぎず、ただただ触っていて『解けちゃった』ときの快感を味わってみてほしいですね」
アキオさんが制作したパズルで、現在購入できるのは全7作。デスクに置いて息抜きや頭の体操に楽しむのもおすすめだ。大人になった今こそ、作家の工夫が詰まった小さな宇宙のような知恵の輪の世界に没頭したい。