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飲む

あまたの飲食店主へとつなぐ、地方都市のハブとして。福岡〈とどろき酒店〉

ワインの飲み手としては、飲食店で注いでくれる人がなんといっても目立つ存在。でも直接の接点はなくても彼ら彼女らの後ろには、必ず頼りにしている酒販店がいる。インポーターからボトルを選び、受け取り、吟味し熟成させて、これぞという相手へ卸し、魅力を伝える。彼ら酒販店主もまた、ワインの流れに欠かせない存在なのです。

photo: Yoshiko Watanabe, Kenya Abe, Yoshitaka Morisawa, Koji Maeda / text: Mako Yamato, Kei Sasaki, Tsutomu Isayama

「お酒で地域を盛り上げる」を福岡で、ひたすらに

創業は1973年の酒販店。その家業に関わるようになったのは24歳の頃だ。日本酒に惹かれ、福岡県内の蔵を巡り、造り手と対話して「日本酒は人だ」と実感。ここに強い専門店にしようと動き出した。一方で当時は「ワインはコスパ」くらいに思って、興味は薄かった。

しかし2002年に現〈ヴォルテックス〉代表の立野直紀さんから「自然派の生産者に会いに行かないか」と誘われる。知識はほぼないまま「面白そうだな」というだけの理由でフランスへ。生産者と直接対話することで、造り手の思いがボトルに込められていることを肌で感じ、考え方は変わった。「ワインも人、だったんだ」。

さっそくそんな造り手を取り扱い始めたが、最初は卸し先から「濁っている」「泡を噴いた」「澱がひどい」といったクレームもたびたび。「いやまったく、僕らの説明が行き届いていなかったのが原因ですが、なかなか理解が広がらない。そこで試飲会、勉強会をもう積極的にやりました」。その中で福岡市大手門〈鳥次〉店主・小林龍治さんと出会い、強く共鳴。

左/名なしのベリオ2021。右/ダール・エ・リボのエルミタージュ。
左/自社ワイナリーの、名なしのベリオ2021。「当初はブドウを栽培した町名から“川崎”を冠する予定が、醸造場所と産地が同一地区でないと表記が叶わず“名なしの”になりました」。右/2002年にフランスで飲み、「衝撃を受けた一本。生産者との対話から“ワインも人だ”と感じさせてくれた」。ダール・エ・リボのエルミタージュ。

〈鳥次〉を試飲会場に使わせてもらったこともあれば、共にフランスへ生産者に会いに行くほどの仲になった。その後も多くの飲食店主たちと交流を深め、頻繁にイベントを企画、実行。音楽と酒を楽しむ『SAKE A GOGO』をはじめ、日本ワインがテーマの『コップの会』、『満月ワインバー』の福岡編などなど、場を作り、街を巻き込みながら、“酒×地域”を実践してきた。

今、ワインの卸先となる飲食店は福岡を中心に九州各地、さらに全国へ。この街ですっかりナチュラルが当たり前になった背景には、こんな積み重ねもあった。

そして昨年には、夢の一つだった自社ワイナリーとして、ストゥディオゴーゴーを立ち上げる。畑も設備も、場所はもちろん福岡県内だ。「お酒で地域を盛り上げる」。店に立ち始めた当初からの理念を、次は造り手としても実現しようとしている。

〈とどろき酒店〉店主の轟木 渡さん