Drink

あまたの飲食店主へとつなぐ、地方都市のハブとして。茨城〈葡萄酒蔵ゆはら〉

飲み手としては、飲食店で注いでくれる人がなんといっても目立つ存在。でも直接の接点はなくても彼ら彼女らの後ろには、必ず頼りにしている酒販店がいる。インポーターからボトルを選び、受け取り、吟味し熟成させて、これぞという相手へ卸し、魅力を伝える。彼ら酒販店主もまた、ワインの流れに欠かせない存在なのです。

photo: Yoshiko Watanabe, Kenya Abe, Yoshitaka Morisawa, Koji Maeda / text: Mako Yamato, Kei Sasaki, Tsutomu Isayama

「売れるものより、好きなもの」をずっと変えずに

「売るよりも買うことが好き」と、笑いながら話す。ワインの店なのに?正確には「すぐには、売らない」。茨城県つくば市の本社併設セラーは180㎡、4万本が眠る。

大学時代に姉の影響でワインを飲むようになり、ほかにやりたいこともなかったからワイン屋を始めた。始まりに、ドラマはない。が、ギアを切り替え、アクセルを踏む時が訪れる。

2003年に飲んだアンジョリーノ・マウレがきっかけだ。「飲み心地の良さに、これだ!と。ワインは飲み物だよなって腑に落ちて」。その頃ほぼ無名だった輸入元〈ヴィナイオータ〉は偶然、近所。新しいアイテムを共に試飲し、紹介するという二人三脚がしばらく続く。銘醸品もそこそこ飲んで、上等とは理解できても、着飾った感が好きになれず悶々としていた頃。売りたいものが明確になり「イタリアを中心とする自然なワイン」という看板ができた。

左/クリスチャン・ケベル、右/ローズィ・エウジェニオ
左/自社輸入するスロベニアの生産者、クリスチャン・ケベル。「3種の地品種で、造るワインは1種類だけ。固有のワイン文化がある地域で、先代との造りの違いも含め興味深い」。右/トレンティーノの奇才、ローズィ・エウジェニオ。「長期間マセレーションしながら、いわゆる“オレンジ”とは違う仕上がり。ひねくれたところも好き」

まだまだオルタナティブだった時代、「欠陥がある」「すぐヘタる」と、あちこちから飛んでくる難癖を打ち返す必要があった。「ならば、売らずに取っておく」。支払いが大変なこともあったけれど、迷いはなかった。20年近く経ち、かつて売れなかったものが今や“瞬殺アイテム”に。それでも毎年一定量を必ず取っておく。

「熟成こそ醍醐味。カヴィストやソムリエは、そこを楽しまないと」

口べたな分、ワインで伝える。若いソムリエや飲食店主が来たら、秘蔵のバックヴィンテージを気前よく開けるのは、業界ではちょっと知られた話。「彼なら売ってくれる」という輸入元、「彼が推すなら」と買う飲食店は多く、卸先は200軒以上。ほぼ都内だ。

18年から自社輸入も開始。飽和する市場で買い争うより、売れていないけれど価値ある造り手を見つけたいというのが理由だ。「売れるものでも好きじゃなきゃ扱わない、たとえ売れなくても好きなら扱う」、頑固でマイペースなキャラも、20年間変わらない。

〈葡萄酒蔵ゆはら〉店主の湯原 大