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現代の器作家の活躍を、駆け足でおさらい!〜海外からの影響編〜

若手の台頭で賑わう器の世界。そのフィールドを築いたのはどんな作家たち?海外からの影響を併せ、1990年代以降の30年間に注目しました。

illustration: naohiga / text: Masae Wako / edit: Tami Okano

話を聞いた人:広瀬一郎(〈桃居〉店主)

モダンカルチャーとしての新しい刺激

日本の近代工芸におけるトレンドは、30年ごとに変わってきた」とは、〈桃居〉店主の広瀬一郎さんの考えだが、つまりそれは、日本が世界でも類を見ない器大国であることの証しでもある。同じ時代を共有しながら多くの器作家が活動し、新たな作り手や作風も次々登場。そんな日本の器好きは、もちろん海外の器への興味も貪欲で、作り手・使い手ともに、さまざまな影響を受けてきた。

1990年代の日本では、建築や家具の分野で北欧モダンブームが起こったが、その際に人気を集めたのが、フィンランドの工房〈アラビア〉や〈イッタラ〉の器。「新しくて懐かしい」というキーワードで語られたそれらは、日本の民藝や工芸とも親和性が高く、やがて北欧ヴィンテージという新たなムーブメントに繋がっていく。

スウェーデンの〈グスタフスベリ〉など名窯で焼かれた古い器は、日本の器作家たちの好みにもヒット。生活工芸の作り手から2020年代に活躍する新世代まで、北欧ヴィンテージ好きは多い。

ファッションや建築ともリンクする海外の器が新鮮

そんなヴィンテージブームを経て、90年代後半に突如現れたのがパリの陶器ブランド〈アスティエ・ド・ヴィラット〉だ。イヴァン・ペリコリとブノワ・アスティエ・ド・ヴィラットの2人が96年に設立したアスティエの器は、蚤(のみ)の市で見つけたヴィンテージと、ボザール美術学校で学んだ彫刻技術が、インスピレーションのもとになっている。

日本では東京・表参道のインテリアショップ〈H.P.DECO〉がいち早く2人を紹介して話題沸騰。白い釉薬から素地の土がうっすら透ける質感や、遊び心を利かせたロマンティックな造形は、ファッションやアートの界隈にも多くのファンを生み出した。

naohiga イラスト
Astier de Villatte(アスティエ・ド・ヴィラット)
1996年、イヴァン・ペリコリとブノワ・アスティエ・ド・ヴィラットにより創設された陶器ブランド。世界中にファンを持つ器やオブジェは、パリの工房で職人が手作り。白い釉薬と骨董のようなデザインが特徴だ。

アスティエに限らず、海外の作家に注目が集まった背景には、たいてい目利きセレクトショップが存在する。原宿の〈プレイマウンテン〉に並んだのがきっかけで人気が出たのは、カリフォルニアの陶芸家、アダム・シルヴァーマン。

もともと建築家で、ファッションブランド〈X-LARGE〉の創設メンバーでもあるアダムの作品は、モダンなフォルムに加え、ゴツゴツの溶岩や惑星を思わせる質感とカラフルな色彩が特徴だ。器という日常の存在と、モダンアートやストリートカルチャーの要素をミックスするその表現が、日本の器作家に与えた影響は計り知れない。

naohiga イラスト
Adam Silverman(アダム・シルヴァーマン)
1963年アメリカ・ニューヨーク生まれ。建築家として活躍した後、2002年に作陶を開始。陶器メーカー〈ヒースセラミックス〉ディレクターを経て、カリフォルニアで制作。溶岩のような質感の花器や食器が人気。

さらに、陶芸以上に海外からの影響を大きく受けているのが、木工の世界だろう。例えば木工旋盤で木を削って器や彫刻を作るウッドターニング。現在の日本でも、ベテラン・若手問わず、この技法でウッドボウルや木の皿を制作するクリエイターが増えている。その潮流を生んだ一人が、ロサンゼルスを拠点に活動するアルマ・アレン。

木や石を削り、アーティスティックな造形の器やオブジェを手がける彫刻家だ。素材の力強さと木目の美しさを生かしたウッドボウル作りの技とセンスは、アルマに師事した人気木工作家の盛永省治をはじめ、新世代の作り手たちにも確実に受け継がれている。

naohiga イラスト
Alma Allen(アルマ・アレン)
1970年アメリカ・ユタ州生まれ。98年にニューヨークで彫刻家として注目され、2001年よりロサンゼルスに移住。ウッドターニングによる器や家具も手がける。代表作は木の塊を削る抽象彫刻のようなウッドボウル。

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