解説:若杉 実(音楽ジャーナリスト)
わかすぎ・みのる/雑誌、書籍への寄稿を中心に、CD、DVD企画もプロデュース。著書に『渋谷系』『東京レコ屋ヒストリー』『ダンスの時代』『Jダンス』など。学生時代にブレイクダンスを経験。
ダンサーとしての大森元貴の比類なき才能とは
ミセスのようにロックバンドが本格的にダンスに挑戦した例は世界的に見ても稀かもしれません。大森さんも若井さんも藤澤さんも“ダンサー”と呼ぶにふさわしいダンスを披露しているのですから。
ダンスロックというジャンルを最近耳にしますよね。海外だとインディーダンスと呼ばれている。ロックとダンスの相性の良さは1980年前後のニューウェーブですでに証明されている。でもそれは、音の中での蜜月。彼らミュージシャンがライブで踊ることはあっても、ダンサーになることはない。
それはなぜか。命の次に大切な楽器を手放すことを想像してみてください。大森さんの手はいつでも楽器から放せる態勢にある。バンドを結成する前、DTMから音作りに入っているというのも理由の一つかもしれません。ここはダンスロック系との共通点でもある。エディット作業で得られたデジタルなリズム感は、従来のバンドマンのそれとは異質なものでしょうから。
ただ大森さんの場合、ダンスにアプローチできた理由はそういう理屈でもないような気がする。「人を驚かせることが好き」という過去の発言にもあるように、好奇心とか、そういうメンタルな部分に左右されたものではないかと推測しますね。
バンドに限らず、昭和歌謡やアイドルポップスなどこれまでの日本のダンスとポップスの関係を考えても、当てはまるものがありません。裏を返すと、全部当てはまるようにも見える。大衆演芸としての娯楽性はミセスの陽性、サービス精神のようなものに通じる。アイドルポップスは言わずもがな。「ダンスホール」を発表したとき、みずから殻を破りファンとの協調性を強く望む姿勢が伝わってきましたから。
ソロの例についても、ジャクソン5からマイケルが、ニュー・エディションからボビー・ブラウンが、イン・シンクからジャスティン・ティンバーレイクが……海外で言うボーイズグループからソロに転じるのと違って、日本での成功例は極端に少ない。“ダンスもする”というシンガーならほかにもいるのかもしれませんが、“大衆の目”をいつも忘れずにいるのが大森さんの真骨頂、俯瞰力がすごいです。
近年は音楽に限らず、ダンスがトレンドとなる例も多いですが、ミセスのすごさは“共有力”。「ダンスホール」が好例になりますが、これはもしかすると「Love me, Love you」(2018年)のセルフアンサーなのではないかと。
「Love me, Love you」のMVではダンスホールの箱バンという立ち位置でしたが、そこで目の前の群舞に刺激され(自分たちが踊る)「ダンスホール」が4年後に生まれた、というストーリーを連想します。「ダンスホール」はポジティブなテーマであるように、みんなで踊れるような振り付け。結果的にストリーミングでの1億回再生を当時の自己最速で達成しました。“見るより踊る方が楽しい”というダンスの奥義に、彼らは気づいたとも言えるかもしれませんね。
ダンスホール/Mrs. GREEN APPLE
バンドの中に“ダンス”というベクトルを新たに加えた記念碑。パフォーマンスディレクターを務めたのは、K−POPブームの黎明期から現地でも活躍、BTSやSEVENTEENもサポートする井上さくら。この曲の振り付けはみんなで踊れるもので、以降のミセスのダンスと比較すると難しい方ではない。それだけ話題性も視野に入れていたのかも。
breakfast/Mrs. GREEN APPLE
「ダンスホール」から3年。彼らのスキルアップが確認できます。カメラが上半身を捉える中、腕から指先まで細かいハンドモーションを披露。起床し、髪をセットし、朝食を作る手の動きを中心としたそれまでの所作がそのまま振り付けになったような動き。インパクトがあるだけに誰もが真似したくなるハンドモーションです。
French/大森元貴
振り付けは吉開菜央。ストリートダンスやジャズダンスとは筋肉の使い方が異なるコンテンポラリーダンスを引用したことで、ダンスのハードルがかなり上がっています。曲のテーマに合わせて、静から動へと振りも移動する場面が繰り返される。専門のダンサーを立てずに自分で踊り、それも「ダンスホール」以前というから驚きです。
Midnight/大森元貴
「French」での筋肉の使い方がここでプラスに働いている。活力、持久力が問われるヒップホップダンスで、その動きが大森さんのムーブにキレを与えています。振付師は3人起用され、個々のエキスパートによって完璧な仕上がりに。中でも素早いロックダンス(Lock Dance)が白眉です。振付師の分業はK−POPの特徴でもありますね。
絵画/大森元貴
振り付けは、昨年のドームツアーも一部担当していたs**t kingzのkazuki。楽曲のテーマに合わせて、ダンスにもいろんな要素を交錯させているのがわかります。ジャズダンス、ストリートダンス、コンテンポラリーの流れを汲んだものと多彩で、それを心境の変化に応じてソロ、グループ、ソロ+グループによる3つの編成で描き分けています。