消え去る人に見出した、人間の普遍性と日本らしさ。“蒸発”にカメラを向けたドキュメンタリーが公開

毎年約8万人が失踪し、数千人が完全に姿を消してしまう。「蒸発大国」とも呼ばれる日本の「ある日突然、人がいなくなる」という現象を追い、40以上の国際映画祭で注目を集めたドキュメンタリー映画『蒸発』。本作を共同監督した映像作家のアンドレアス・ハートマンさんと、ベルリンと東京を拠点に活動する映像作家の森あらたさんが語る、「蒸発」の普遍性とは?

photo: Kenya Abe / text: Tomoko Ogawa

語ってくれた人

アンドレアス・ハートマン(左)
映画監督、プロデューサーであり制作会社Ossa Filmの創設者。監督・プロデュース作品は、世界各地の国際映画祭で上映されている。長編第3作『自由人』は、第22回釜山国際映画祭にて釜山シネフィルアワードを受賞。

森あらた(右)
もり・あらた/映画監督、映像編集者、アーティスト。ヴィム・ヴェンダース自らが選ぶ、気鋭の映像作家に贈られるヴィム・ヴェンダース奨学金を受賞。パラリンピックのドキュメンタリー『WHO I AM』が国際エミー賞候補。

──蒸発というテーマに惹かれたきっかけについて聞かせてください。

アンドレアス・ハートマン

10年以上前、京都で滞在制作をしていた際、大阪・西成の街について知りました。匿名で仕事も住居も得られる場所があることに、強く惹かれました。同時に、夜逃げ屋の存在も耳にしたんです。蒸発は、誰もが自身の物語に重ね合わせられる普遍的なテーマだと感じました。

森あらた

僕は蒸発というテーマに、諸行無常のような東洋的思想を感じていて。タブーだからこそ理由を問わない風潮がある一方、それを自然現象のように受け入れる日本社会に興味を持ちました。それと単純に、失踪後の世界を見てみたかったんですよね。

──ドイツ生まれのハートマンさんと日本生まれの森さん。異なる日本への距離感がもたらしたものとは?

人生の半分を海外で過ごしているので、日本において「半分外国人」みたいな感覚がある。アンドレアスは外から日本を見ているぶん、僕よりも文化に詳しかったりもするんです。

ハートマン

その距離感が、登場してくれた方々の心を開かせたのだと思います。私たちは部外者でありながら内部の人間でもある、中間の存在なので。

ある種、セラピーのような場になっていたと思います。身近な人には話せなくても外へ持ち帰る人には話せることがある。機会がなかった人たちの声を代弁する役割を担えたのかなと。

ハートマン

もともとこの映画は国際版として製作されたため、出演者も安心して話してくれました。撮影終了後に彼らと相談し、匿名性を保ちつつ表情が伝わるAI技術で加工し、日本公開版を製作することが決まったんです。

©2024 OSSA FILM, BR, MORI FILM

──日本語話者ではないハートマンさんが撮影を担当されていますが、どんな感覚で瞬間を押さえるのでしょう?

ハートマン

大事な瞬間かどうかは感じ取れます。声のトーンやエネルギーの変化を、全感覚で読み取るんです。でも、言語の壁から大きな誤解が生じることもありました(笑)。

ある失踪者の方の取材が終わった後、アンドレアスが「もうフライトを取って帰る……」と言うから、「え、なんで?すごく親密で深い内容だったのに!」って説明して(笑)。

ハートマン

後に、深刻に命を絶とうとした話をしていたと知りましたが、終始笑顔だったので、「このプロジェクトはやめるべきかも」と思い込んでしまって。後日、英語を話せる方を取材したときに、言葉がじかに届き思わず涙が出てしまったこともありました。

──撮影を終えて、蒸発に対する考え方に変化はありましたか?

変わりましたね。人生をやり直す、というポジティブな側面がより見えてきました。映画で出会った人たちは、社会の外側で生きながらも、ちゃんと居場所を見つけていた。自分の人生に対する価値観もほぐれました。

ハートマン

私はいまだに逃げるより問題に向き合う方がいいと考えています。蒸発は繰り返されやすく、世代を超えた問題に発展することも。でも、自死しか選択肢が見えないような状況の場合は、消えることが第二の人生を生きるチャンスになる。そう思います。

TAG

SHARE ON

FEATURED MOVIES
おすすめ動画

BRUTUS
OFFICIAL SNS
ブルータス公式SNS

SPECIAL 特設サイト

FEATURED MOVIES
おすすめ動画