日本、そしてアジアのもの作りを世界に
2018年に〈ユナイテッドアローズ〉から独立して以来、ファッションキュレーターとして独自の道を歩んできた小木基史(POGGY)さん。
世界を股にかけて活躍してきたからこそ、今の小木さんが再発見しつつあるのが、自身のルーツである日本文化だ。満を持して今季からスタートした自身のブランド〈ディアボロ〉にも、それは確かに表れている。
「ブランド名の“ボロ”は、日本に古くから伝わる“襤褸(ぼろ)”が由来で、一部のアイテムにもそのモチーフをデザイン的に取り入れています。アメリカやイギリスのファッションに憧れてきたせいもあって、若い頃の僕は和モノに対する苦手意識があったんですよ。だけど、〈ユナイテッドアローズ〉でバイヤーやディレクターとして仕事をする中で、海外のデザイナーと交流する機会が増え、彼らを通して日本のものに対する興味が湧いてきたのが、12年くらい前。それからは家具とか器とか日本人が作ったものが気になりだして、最近で言えば〈マツダ〉のAZ-1を買いました。ガルウィングの軽自動車という、それこそ日本人にしか思いつかなそうなデザインが気に入っています。〈ディアボロ〉では、ファッションでそういう日本独自の感性を自分なりに表現できればなと」

日本で育んだ感性を生かしまだ見ぬウェルメイドを探す
かくして出来上がったのは、襤褸や刺し子を既製服の技術で再現した遊び心溢れるアイテムだ。生産背景も日本にこだわっている。
「今、日本の工場でアイテムを作りたいブランドが、ビッグメゾンも含めてすごく増えているんですね。もちろん、それはクオリティが高いからなんですけど、特にデニムに関しては、日本のブランドであっても新規参入が難しい状況です。そんな中、〈ディアボロ〉にはデニム業界に精通している方が参加してくれているおかげで、日本でもの作りできる体制が整っていました。そんなチャンスは人生で何度もあるわけじゃない。それで今回、チャレンジすることにしました。まだ少ないですが、今後は海外での販路も少しずつ拡大していくのが目標です」

小木さんといえば、26年の秋冬から〈ジミー チュウ〉メンズコレクションのスタイル・キュレーターに就任することが発表されたが、そこで期待されているのも“日本人の目”にほかならない。
「〈ジミー チュウ〉の拠点であるロンドンには、メンズ・トラディショナルファッションの聖地と呼ばれるサヴィル・ロウやジャーミン・ストリートがある一方、今の音楽と強く結びついたストリートファッションもある。両者の共存が面白いところだと僕は思っているんですが、実際にイギリスで暮らしている人たちはそのへんがあんまりピンときていないみたいなんですよ。僕が日本文化の魅力に気づけなかったのと同じですよね。だから、そういう感覚をプロダクトに反映させていきましょうって話を今はしています」

そんな小木さんにとって、ウェルメイドをめぐる価値観も、この国と無関係ではない。
「新品からヴィンテージ、さらにアーカイブも含めてここまで何でも揃っている国ってほかにないと思うんですよ。しかも、欧米ではファッションって、階級や人種などと強く結びついていますが、日本では誰がどんな格好をしても後ろ指をさされることはあまりないし、別の文脈のスタイルをミックスすることも許されている。そういう自由にファッションを楽しめる国のセレクトショップで、世界中のウェルメイドに囲まれながら働いてきたので、ある意味では“ウェルメイド慣れ”している気がします(笑)」

だから、小木さんは不朽の名品だけでは満足できない。まだ見ぬウェルメイドを常に探している。
「近年、インドのブランド〈カルティック リサーチ〉が注目されていますが、東南アジアのもの作りがこれからどんどん面白くなっていくと思います。タイでオーダーメイドしたベトナム製シューズブランド〈ファーイースト・コブラー〉もその一つ。これからは日本に限らずアジア全体のファッションにも目を向けつつ、世界に発信していきたいですね」
