レビューした人
楽曲制作やライブをともにした友が綴る
安心できる居場所を、大きな主語に、あるいは作られた物語や、強い言葉に求める。そんな空気に溺れて窒息しそうになった時、『Thoughts of You』が届いた。1曲目「in silence」から、一人の“タフじゃないあなた”に語りかけ、2曲目「so far」では、たまたま失われた誰かの未来と交差する。
8曲目「Lost Souls」と10曲目「黄昏」の2曲は彼の新機軸だと思う。地を這うようなリズムや、エコーの藪(やぶ)の中に迷い込む。そうかと思えばやっぱりどの曲も“律儀に”と言っていいほど、光のさす、ひらけた場所に連れ出してくれる。歌詞の中で“忘れる”と“覚えてる”を行ったり来たり、反芻し続けている。
butajiは、一度自分の中に積もったものを捨てられない人だと思う。着てきた服をろくに脱がずに、どんどん着膨れていく。誰もが歳を追うごとに目指すような“洗練”を拒む。あの日も、今も、あなたも、私も、全てが重要で、butajiはもうお手上げなんだ。愛くるしさの沸点を飛び越えた時、喉が爆発する。
11曲目「さようならをいう前に」2分過ぎのヴィヴラートを聴けばわかる。ノイズを内包した、気恥ずかしいほど美しいコードと旋律。雄叫びを包み込む毛布のようなハーモニー。butajiはやさしい。ただそのやさしさは独特で、いつも注釈の中に、厳しさの中にある。気取った暗さや、空疎な前向きさとは違う。声も出ない、暗くて臭くて寒い場所から取り出した、砂金のやさしさ。それだけが私たちの今のよすが、居場所だ。
松戸の居酒屋で話した事を時々思い出す。私「(音楽を)良いと思える基準て、なんすかね?」butaji「葛藤があるかないか」。明るくはないけど、暗すぎじゃないよ。これからも!
前作『RIGHT TIME』から約4年半ぶりの新作アルバム。2月に先行配信された、岡田拓郎プロデュースによる「in silence」を含む計12曲を収録。ほか香田悠真、町田匡、篠田ミル(yahyel)、MET、三浦透子、山本慶幸(トリプルファイヤー)ら多数のミュージシャンが参加。