創る人は、おもちゃを愛する人。イラストレーター・安西水丸

時代に残るクリエイションを生み出した人たちが大切にしたのは、子供のような遊び心かもしれません。真似のできない仕事術を支え、刺激し続けたおもちゃと巨匠の話。

本記事は、BRUTUS「TOY LIFE」(2026年3月2日発売)から特別公開中。詳しくはこちら

photo: Keisuke Fukamizu / text: Keiko Kamijo

絵と文章に表現された民藝玩具の不思議な魅力

中央に1本の水平線が引かれ、ツートーンに色分けされた背景。そこに、ぬいぐるみやブリキ、文房具、こけしや民藝玩具などが配置される。日用品や旅先の土産物屋で出会う何でもない品が、安西水丸のマジックにかかると、なんとも素敵で特別な宝物に思えてしまう。

また生前は多くのエッセイを執筆していたが、そこにも軽やかな文体で様々な蒐集品(しゅうしゅうひん)への思いが綴られた。そんな安西水丸を魅了し続けた民藝玩具を見に、青山のアトリエを訪ねた。

主にエッセイを書く時に使ったというデスクの両サイドには、壁を埋め尽くす棚があり、本と各地で集めてきた民藝玩具が置かれている。日本各地の郷土本や旅ガイドに交じり、玩具、こけし、ジャズ、郷土史……、様々な本が並ぶ。そして、日本の郷土玩具があるかと思えば、スイスのネフ社の木工玩具、アメリカのミスター・ピーナッツのグッズ、ブリキのバス、メキシコの木彫りの動物等、国も時代もバラバラだ。

アトリエは生前からそのままの状態で保存されており、これらはすべて本人が並べたのだという。世界中の旅先で名もなき人たちが作った土産物を買ってくることを好んだが、それをアトリエで配置することも楽しんだ。

アトリエのデスク脇の棚。本とともに民藝玩具が並ぶ。お面やこけし、アメリカのキャラクタートイ、ぬいぐるみなども見える。エッセイの息抜きに棚を眺めていたのだろうか。

どこにでもある物に唯一無二の魅力を感じる

イラストレーションや文章と同じく、コレクションにも一貫した安西水丸らしさが漂う。スノードームを好む理由に「どこの土産物屋にもある」「安価である」「土地の魅力が凝縮されている」ことをたびたび語った。民藝は「用の美」を好み、美しさや飾ることよりも好きなカレーライスを食べるための器を求めた。

「どういうわけか、ぼくは子供の頃から主役的存在に興味が持てなかった。小学校に入学しても、友だちになるのはいつもちょっとズレた人間だった。金色よりも銀色が好きで、漫画などでも主人公よりわきの方が気になった」(『4番目の美学』より)

「何でもそうだが、ぼくはあまり高度な技術を好まない。もちろん高度な技術はあった方がいいのだろうが、ただそれだけのみを感じさせているものはどうかとおもう」(『鳥取が好きだ。水丸の鳥取民芸案内』より)

ブルーウィローの器。幼少期の記憶にあった皿の模様を後に友人から聞き集め、工房を訪ねたりもした。

主人公よりも脇役が好きで、技術力の高さよりも、作者の情熱や味わい深さを優先するという独自の視点で物を選び、それを愛してきた。様々な物に興味はあるが、それを選ぶ“眼”は常に一貫している。

物の配置は本人がしていたが、スノードームやこけし、ガンビー人形、ウルトラマン人形等を、1ヵ所にまとめて置くのではなく、アトリエ、寝室、打ち合わせ部屋と点在させていた。どんな意図があったのかは本人にしかわからないが、文章やイラストレーションを生み出す空間に敢えて散らばらせていたのではないか。

一つ一つの物は、作り手、作られた背景、生み出された土地、手に入れた時の高揚感といった旅の記憶にアクセスするスイッチとなる。そして、絵や文章に描かれた物は、見る者に新しい想像をさせてくれるのだろう。

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