空間と人とをつなぐ、一脚ごとの存在感
奈良を拠点に活動する照明ブランド〈ニューライトポタリー〉。自社プロダクトのイメージ写真には、いつもさりげなく存在感を放つ椅子が写り込んでいる。主宰する永冨裕幸さんいわく、「照明と椅子を一緒に撮影するのはスケール感を伝えるため。人の体をイメージすることで、光の大きさや距離感が伝わる。椅子はヒューマンスケールの役割を果たす存在なんです」。
もっとも「一脚あると場の雰囲気が変わる気がして、ついいくつも買ってしまうんですけどね」という言葉に、椅子好きの本音がちらりと覗く。

建築を専攻していた学生時代、初めて自分で手に入れた椅子は、リサイクルショップで見つけたイームズのシェルチェアだった。それがインテリアに興味を持つきっかけになったという。でも椅子を自らデザインする道へは進まなかった。
「学生の頃、椅子を作る課題で考えたのが山の等高線を模したスツール。ところが座りにくくて重くて。才能がないと諦めました」。とはいえそれから20年余り、興味は尽きることなく、有名無名を問わず心に響いた椅子を手に入れ続けてきた。信頼の置ける実店舗で選ぶこともあれば、ネットオークションを利用することもある。
スツールなら、海外の旅先から手荷物で持ち帰ることもあるという。一方で、若いうちにいい椅子と暮らす体験をしてほしいと、下の世代に譲ることも少なくない。そんな現在、手元には50〜60脚がある。「ペットと暮らしているので、ラタンなど傷つきやすいものの多くはオフィスやショップにあって、自宅のは気取らないものが中心」

玄関ではマリオ・ボッタの名作《セコンダ》がゲストを出迎える。選び抜いた素材を生かした、ミニマルなプロダクトを手がける永冨さんにとって、どこか意外性を感じさせる一脚だ。「イタリアモダンには自分の仕事とはまた違う、自由さがあります。憧れに近い感覚かもしれません」。
アッキーレ・カスティリオーニやエンツォ・マーリら、巨匠のデザインに触れてきた経験も自身の制作に少なからず影響しているという。「とはいえ、例えばフィンランドの椅子ばかり揃えて北欧風にする、といった◯◯風は避けたい。とりわけ年々興味の幅も広がっているようにも感じているので」
リビングダイニングに足を踏み入れると、その言葉が体現されていると一目でわかる。鉄板を折り曲げたテーブルを囲む4脚は、家族それぞれのために永冨さんが選んだ椅子だ。自身の椅子は、太く粗いからこそ雰囲気のある70年代のフレームに、現行品のクッションを合わせた《ソフソフ》。
妻は《フレックス》、2人の子供の椅子は座り心地を重視した《ブルーノチェア》と、身長に合わせて脚をカットした《フランクフルトチェア》を。リビングにはハンス・J・ウェグナーの《GE375》が置かれ、シャルロット・ペリアンのスツールがオットマンに。

キッチンにはフィンランドから持ち帰ったサウナチェア、デスクにはアルヴァ・アアルトの《ハイチェアK65》。布張りのシートは猫が爪を研いでも耐えられる生地に張り替え、木製のスツールは自らペーパーをかけ手入れを施す。名作でも扱いはあくまで日常の延長線上。

飾るための存在ではない。家族が座り、猫や犬もくつろぎ、暮らしに溶け込む。その佇まいが、空間の印象を形作っている。永冨さんにとっては、椅子も照明も、同じ役割を担うものかもしれない。人の営みを受け止め、場の空気を静かに整える存在なのだ。



