伊勢丹新宿店「ザ・ステージ」を占拠!?“目利き家”安藤夏樹を知っているか?Part.3〜コレクター編〜
photo: Norio Kidera / text & edit: Yu-ka Matsumoto
築き上げてきた人脈をフル活用してスタートしたギャラリー業でも才覚を表し、早くもART FAIR TOKYOの人気ブースのひとつとして認知されるようになってきた。編集者として約25年のキャリアを積み、現在50歳。仕事というリミッターを解除して安藤夏樹を俯瞰したときに見えてきたのは、彼の原点でありライフワークでもある「コレクター」としての一面である。
高校生時代に兄から譲り受けたマルコムXのユーズドTシャツが運命を変え、“散財王”までの茨ロードを歩き始めることに。古着というジャンルの無限沼にハマり、その王道を一気通貫。そこから蒐集の旅は拡大し、腕時計、写真集、ヴィンテージ家具、器やガラスなどの工芸品、北海道アートなどなどなど。守備範囲はまさに「エリア51」、イチローなのである。編集業、ギャラリー業でも類稀なる目利きの力を披露し続けるその審美眼は、すべて蒐集の課程で養われてきたものに違いない。
「僕は、ビジネスも自分の考え方も、コレクションとかコレクターっていうのをひとつのテーマにしているんです。何かを紹介するにしても、ちゃんと自分が欲しいと思えるか、集めたくなるものなのか、ってことを重要視しています。
個人的に一番つまらないのは、お金持ってんなーって思われるコレクション。わかりやすく高額品ばかりを並べてるのは一番面白くない。お金のあるなしに関わらず、その人らしいセンスが滲み出ているなと感じられるのが理想的ですよね。
集める基準は、資産価値よりも文化的価値を大切にすること。面白さや失われそうな価値、時代が残すべきものを選ぶようにしています。まさに“木彫り熊”というジャンルもそうですし、腕時計なんかもそう。僕は腕時計を200本以上持っていますが、実はロレックスは1本しか持っていません。それもかつては評価の低かったドレスウォッチライン。ジェラルド・ジェンタがデザインした〈チェリーニ キングマイダス〉という腕時計です。もちろんロレックスってかっこいいけれど、それを売ったらほかの面白い時計が5本も買えるって考えると、ついそっちがいいなって思っちゃうんですよ(笑)。
フランス文学者であり自身も古書コレクターである鹿島茂さんからの一言に、コレクターとしての最適解を見つけた気がしました。コレクションの本質って“既にあるモノからないモノを作ること”。蒐集し体系化することによって新たなジャンルを生み出すことができるわけです。ある意味で創造的な行為なんだと気付かされたんですよね」

この考え方は、安藤さん自身の編集者としての仕事観とも深く共鳴しているようだ。そして話題は、伊勢丹新宿店・本館1F「ザ・ステージ」で開催中のイベント『プレコグのおもちゃ箱』へ。この標題は、自身が手掛けた黒田泰蔵の書籍『Colorful』にも影響を与えた、猪熊弦一郎の著書『画家のおもちゃ箱』のオマージュでもある。
「木彫り熊生誕100周年を迎えた2024年に、伊勢丹新宿店本館5階にて『熊は100歳100祭』という大きな展示販売会を開催しました。これがひとつのきっかけになります。昨年、伊勢丹の方から今度は一階でやってみないかとお話をいただいたんです。当初は木彫り熊でという話だったんですが、ちょうど自分が50歳という節目の年だってこともあり、どうせやるならコレクターとして、編集者として、さらにはギャラリストとして自分が関わってきた全てを盛り込みたいなと。
今回のイベントでは、僕がコレクションしてきた中でも、本当に手放したくない特級品だけを出品します。ただ、それだけじゃなくコレクター人脈をフル動員。お世話になっている業者の皆さんや、コレクター仲間にも協力してもらい、これを逃したら二度と手に入らないものばかりを並べることにしました。僕にお金があったら買いたい!そんなレアものばかりを並べて販売できるってことが本当にすごいです。
僕は最近、日本の竹工芸にも関心を持っているんですが、仲良くしていただいている日本人のビッグ竹工芸コレクターのお話によると、海外に比べて国内の評価がまだまだ足りず、国外にたくさん流出してしまっているそうです。実は今回のすべての出品物の中で最も高価なものは飯塚琅玕斎の竹籠で、数千万円。世界中のアートコレクター憧れの逸品です。まさにミュージアムピースですよね。日本にはこういう素晴らしいものがあるんだということを知ってもらえる機会になればいいなって思っています。
伊勢丹のザ・ステージは、普段なら世界的ラグジュアリーブランドなどがイベントを行う場所。今回のPOP UPは、僕にとってはまさに夢のようなお店なんですよ。
実は先日、以前の伊勢丹のイベントで柴崎熊を買ってくれた方から、『安藤さんがいなくなったら木彫り熊はどうなるんですか?』って聞かれたんです。もちろん作品としての価値は失われないですよって答えたんですけど、僕にはその責任があると改めて感じました。もちろん最初から木彫り熊の普及活動を一生続ける覚悟はあります。ただ、それは生きてるうちだけじゃダメなんだなと。なので、やっぱり買ってくれたみなさんが、あの時買ってよかったなって、ずっと思い続けられるような形にしていきたい。そのためには、今回のようなイベントでいいモノをたくさん紹介して、少しでも多くの人に広く知ってもらうことが大切なんですよね」
何かを手にするためには、何かを手放さなければならない。そうすることでまた新しい出合いが生まれる。先人のコレクターたちは皆、そう自分に言い聞かせて自身のお宝とサヨナラを繰り返してきた。散財王を目指し、再び大海原へと出航した“目利き家”・安藤夏樹の宝探しの旅は、これからも続いていくことだろう。

ガイドブックに未収録の作品をご紹介
安藤夏樹のコレクションを詰め込んだ「宝箱」。柴崎重行の木彫り熊、エリック・ホグランの花瓶、江戸時代のお鷹ぽっぽ、長谷川竹次郎の熊のチャームネックレス、砂澤ビッキの首飾り、内田鋼一の器。これらを横田峰斎の竹籠に詰めたスペシャルBOX。

鈴木吉次の木彫り熊(マスク)。

引間二郎の木彫り熊(マスク)。

引間二郎の木彫り熊。

引間二郎の木彫り熊。

引間二郎の木彫り熊。

加藤貞夫の木彫り熊。

加藤貞夫の木彫り熊。

柴崎重行の木彫り熊。

柴崎重行の木彫り熊。

柴崎重行の木彫り熊。

長谷川竹次郎のアクセサリーいろいろ。

茂木多喜治の木彫り熊。

柴崎重行の木彫り熊。

柴崎重行の木彫り熊。

長谷川竹次郎の植物茶箱。20年ほど前に制作した内田鋼一の茶盌が内包されている。

瀧口政満の木彫り。

瀧口政満の木彫り。

