ファン目線で考える、令和の「アイドル像」

今こそ考えたい。私たちにとってアイドルはどんな存在なんだろう。ジェンダー観や恋愛、推しとの関係性など、ファンが胸の内に抱える複雑な感情について、アイドルを愛する有識者3名に語り合ってもらった。

illustration: Hitoshi Kuroki / text: Yoko Hasada

語ってくれた人

上岡磨奈(社会学者、アイドル研究者)
かみおか・まな/1982年東京都生まれ。アイドル、作詞家などを経て主に「アイドルの労働」の研究を行う。著書に『アイドル・コード −託されるイメージを問う』など。

いなだ易(文筆家)
いなだ・えき/1994年生まれ。同人サークル〈てぱとら委員会〉メンバー。上岡磨奈さんほか編著『アイドルについて葛藤しながら考えてみた』などに寄稿。

つやちゃん(文筆家)
執筆や企画、アドバイザリーなど幅広く活動。著書に『わたしはラップをやることに決めた フィメールラッパー批評原論』『スピード・バイブス・パンチライン』など。

「アイドルらしさ」は存在しない?

つやちゃん

私は以前から華やかなガールズカルチャーに憧れがあったんですが、音楽評論の世界ではアイドルは“下”に見られがちで、葛藤していました。しかし、2020年頃からK-POPを中心としたガールクラッシュ(*1)系の台頭、自身にとってはaespa(*2)が印象的でしたが、彼女たちの存在によって音楽評論側も見方が変わってきた。シーンの音楽性もより豊かになったし、何より胸を張ってアイドルが好きだと言えるようになりました。

上岡磨奈

K-POPも当初は日本のアイドル文化の影響を受けながら、次第にクリエイティブも楽曲も、独自の文化が育まれましたよね。

いなだ易

ファンからすると、訓練の方法論が違うのかなと。韓国のアイドルは、厳しい練習生期間中は表舞台へ立つことはほぼない。でも、例えばジュニア(*3)やハロプロ研修生(*4)はかなり現場主義で、新人でも舞台に立つ機会が与えられ場数を踏むことで実力が鍛えられる。近年のK-POPアイドルたちは、練習熱心で技術力もある人が多く、ファンの間でも、訓練されたアイドルの美学が評価される傾向が強まったように思います。

つや

確かに。アイドルに関心がある人たちが思い浮かべる“アイドルらしさ”は、更新されているのかも。

上岡

一方で、世間一般的なアイドルのイメージは、旧来型の純粋無垢なかわいらしさだったりする。実際は、カッコいい曲もたくさんあるし、フリフリした見た目だけが“らしさ”じゃないのに。いろんなグループを見ている人からすると、「アイドルっぽくない」という評価に首を傾げたくなるくらい“らしさって何?”となります。究極、全員が納得するアイドル像なんてないのかも。

理想は抱いても、一元化するなかれ!

つや

今は楽曲も表現も多様で、類型化できなくなっています。日本のアイドルは社会の映し鏡的存在だと思っていて、70~80年代は純真無垢さ、2000年代は親しみやすさが支持された。でも近年は、自分らしさが尊重される風潮から個性やオリジナリティが求められるように。その結果、表現の在り方も十人十色になりました。アイドルがますます面白い時代になったと思います。

上岡

だからこそ、心の中は常にせめぎ合い。理想像を抱きながらも「アイドルを一元化しちゃいけない!」と思う自分がいます。

つや

わかります。なので、lyrical school(*5)のように男女混合のグループや、メンバー同士の交際を公言しているfairy♡larme(*6)の存在に、時代の変化を感じます。

いなだ

それこそがアイドルを追い続ける面白さなんじゃないでしょうか。理想を追い求める楽しさもありますが、想像しなかった存在に引き込まれる喜びもある。上岡さんの言葉を借りれば、今後アイドル・コード(*7)はより複数化され、見せ方もどんどん変化していくのではと。

上岡

FRUITS ZIPPERの木村ミサさんや=LOVEの指原莉乃さんのように、メジャーシーンでプロデュースに関わる女性が増えた。新しいフェーズに入ったと感じます。(*8)

黒木仁史 イラストレーション

アイドルには性愛を求めていない?

いなだ

ここ最近、恋愛禁止の風潮が、また高まっていませんか?

つや

同感です。異性愛を前提とした恋愛に限定されているような点にまず疑問がありますし、受け手が一方的な解釈を押しつけている感じも。

上岡

でも私が思うのは、今のファンは、アイドルに性愛を求めていないんじゃないかということです。

つや

アイドルにガチ恋(*9)していないってことですか?

上岡

極端に言えば、男性女性ではなく「アイドル」という性別で見ているというか。推しの人間らしい部分は見たくないという人が、多い気がします。アイドルは別世界に生きていて、生々しさを突きつけられると夢が壊れるから恋愛禁止。ただ、それってアイドルを人として扱ってないですよね。その点ちゃんもも◎(*10)はレアケースだと思います。

いなだ

あと、週刊誌に交際がバレずに結婚する人を「プロ意識が高い」と言いがちですが、本来は自分らしい表現を磨くことが仕事だしプロらしさのはずで、日々の生活はまた別。完全な切り分けは難しいけれど人格規範を守る=プロと言ってしまうのは変ですよね。

上岡

アイドルにも尊厳があることを忘れたくないですね。

つや

尊厳という意味では、自分はやりたいことに思いっきり挑戦しているアイドルに惹かれます。LDHのf5ve(*11)は別々に活動していたメンバーで構成され、いわゆる2度目のアイドル人生。事務所も自主性を大事にしていて、眠っていた自分らしさがどんどん引き出されていると、本人たちが話していました。

いなだ

やりたいことが叶って解放されている瞬間の輝きは尊い。でも別の人が用意した世界観に浸ることで、新たな自分に出会う人もいますよね。それもまた、魅力的です。

アイドルは人であり、カワイイは変化する

いなだ

最近は、推しという存在が自分のアイデンティティと見られることが増えた気がします。「あの人を好きな私」という自認も強くなっているような。そうなると、期待に反した推しの言動を恥だと感じてしまう。私も昔、推しに説教くさい手紙を書いた記憶が……。

上岡

先日、社会学者の髙橋かおりさんと「“推し”はプロフィールであってアイデンティティではない」という話題になりました。ファン同士の自己紹介は「◯◯推しの上岡」になりがち。でもアイドルと私をイコールにするのは依存しすぎかもと。自分もアイドルも尊重したいですね。過度に期待したり、求めたりせず、見せてくれたものを目いっぱい楽しもうという気持ちです。

つや

いいですね。個人的には今アイドルの「カワイイ」をどう受容すべきかずっと考えていて。(*12)

いなだ

以前のアイドルの表現は、異性に対する性愛的な「カワイイ」が主流でしたけど、今は自己肯定感などメタ的な「カワイイ」の表現が増えていますよね。

つや

近年は男性中心的な「カワイイ」への静かな抵抗も感じます。特集内でも触れていますが、ガーリーでフェアリーなアイドルが一部で増えている印象です。

上岡

以前、二丁目の魁カミングアウト(*13)の筆村栄心さんが、生誕祭ですごくかわいい衣装を着ていて。ふわふわのキラキラな姿を見た、メンバー兼プロデューサーのミキティー本物さんが「初めて自分もかわいい衣装を着てみたいと思った」と感激していたんです。似合うかどうかではなく、まといたい「カワイイ」にアイドル歴15年で初めて気づいたと。「カワイイ」って、そういった気づきやパワーを与えてくれる効能もあるんだと再発見でした。

つや

それは素敵な話ですね。

上岡

二丁魁やリリスク、ゆっきゅん(*14)も出演していたサンリオのライブイベントはアイドルと親和性が高くて、何よりサンリオの「カワイイ」の懐の深さがすごいんです。この先の「カワイイ」を考えるヒントになるような気がします!

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