鍵はキラーフレーズ?音楽ライター・南波一海と『BUBKA』編集長・森田秀一が語る、新時代のアイドルシーン

メジャーからインディーズ、そしてK-POPまで。新時代のアイドルたちが群雄割拠する現在のシーンを、音楽ライターの南波一海と、雑誌『BUBKA』の編集長で「宇多丸のマブ論」を担当する森田秀一に分析してもらった。2人が選び解説する令和のアイドルソング・ディスクガイドと併せてお楽しみください。

photo: Hiromichi Uchida / text: Katsumi Watanabe

南波一海

コロナ禍以降、アイドルの活動形態が変わりましたね。

森田秀一

まず、アイドルの楽曲がサブスクで聴けるケースが増えたのは嬉しい。ライブに行って会場限定販売のCD-Rを買わないと聴けないアイドルがいっぱいいたから……。

南波

仕事上、アイドルの新作は、大体聴くんですよね?

森田

日本のメジャー/インディー、それから韓国のものを含めて、月に200~300曲は聴いていますね。

鍵はキラーフレーズと女性の自己肯定感

南波

コロナ禍で、TikTokなどのSNS上での活動も、アイドルの重要な仕事場所になりました。KAWAII LAB.(*1)は、その状況とリンクして、世に出てきた感じがする。

森田

そうですね。TikTokの影響で、音楽的には短くキャッチーなフレーズを中心に曲が作られるようになって。CMソングのようなテイストが強くなっていると感じますね。

南波

CANDY TUNE(*2)の「倍倍FIGHT!」なんて、一瞬で記憶に残るようなフレーズ。それだけインパクトがあったということですね。

森田

しかし、バズりを狙ってるんだろうなって曲が増えましたね……。

南波

2010年代、BiSHが流行った時も、みんなロックアイドルになったじゃないですか(笑)。

森田

一気に消費されそうで心配。

南波

コロナ以降、ライブも再開されて驚いたのが、本当に女性のお客さんが増えたこと。“カワイイ系”のライブは、自分の体感で7割くらいは若い女性のお客さんなんですよ。

森田

XG(*3)になると、会場の9割が女性客という。おじさんは肩身が狭い……。それまでは男性が中心で、女性は入りづらい空気があった。今は、コールはあるけど、地面が揺れるような野郎たちの怒号は聞かない(笑)。少し寂しいけど。

南波

FRUITS ZIPPER(*4)の「わたしの一番かわいいところ」など、旧来の男にとって都合のいいかわいいじゃなく、女性がかわいいと感じること、それから自己肯定感を歌っていて。これが大きいんじゃないかと思います。自分のため、または女の子が憧れるかわいいを歌っている。そこは大きな変化ですよね。

森田

確かに自己肯定感や夢、友情を歌った曲も多い。これはアイドル本人たちの意向もあると思います。

南波

今までは恋愛ソングが多すぎた。一方でAMEFURASSHI(*5)の楽曲を手がけるstyさんへの取材時「異性間の恋愛じゃない歌があっていいんじゃないか」ということを言っていて、ラブソングも多様化していくと思います。

K-POPの大きな影響とセルフプロデュースの流れ

森田

アイドルとして活動しているわけではないけど、ME:I(*6)の活動はすごく理想的だと思うんです。K-POP的な要素はもちろん、日本の芸能の色気もある。キャッチーでアイドル的にも見えます。

南波

これまで日本のグループが近づけなかった、本場のK-POPに迫るような勢いがありますよね。楽曲のクオリティも高く、ただのモノマネに終わっていない。規模感的にも大きな会場でライブもやれているし。日本のエンターテインメントが、新しいフェーズに移行した感じがする。

森田

カワラボ所属のグループや、純粋なアイドルではないけどHANA(*7)などが、ライブでの口パク禁止を公言していますよね。

南波

ハロプロがアイドル戦国時代に注目されたのは、まさにそこ。実力が試されるところですね。

森田

ライブを観ていると、やっぱりすごいと思います。

南波

私立恵比寿中学(*8)やAMEFURASSHIも、K-POP以降の流れを取り入れて、かっこいいサウンドを作る意志が聴いて取れます。どの楽曲も完成度が高い。

森田

えびちゅうが2024年に発表したアルバム『indigo hour』は、素晴らしい作品でした。最高傑作だと思う。

南波

ファンからは賛否ありましたけど、本当に良かった。

森田

こういう野心的な作風が広まればいいと思っていたんですけど、代表曲の「仮契約のシンデレラ」がTikTokで再ブレイクして、嬉しい気持ちの半面、えびちゅうの進化を楽しみにしている自分もいます……。

南波

新しい展開に期待しましょう。えびちゅうの後輩でもあるばってん少女隊(*9)も、実験的な楽曲を作っていて、常に見逃せません。

森田

セルフプロデュースするアイドルも増えましたね。

南波

令和以降の流れかな。2010年代の楽曲派アイドルの時は、男性のプロデューサーが、趣味性の高い楽曲を女の子に歌わせている傾向が強かったんだけど、そこは変わったと思う。グループアイドルでも、やりたいことをプロデューサーに伝える人も増えているだろうし。その分、個人のセンスは問われるけど。

森田

この時代、アイドルの主張が通りやすくなったんじゃないですかね。そんな中で、僕は戦慄かなの(*10)さんは面白い存在だと思っていて。音楽的にゴリゴリなことをやったと思えば、いきなりアイドルしかやらないようなこともやる。唯一無二の存在だと思います。

南波

独自の活動をしますよね。

森田

少年院時代に音楽やビジネスの勉強をし、出所後にアイドルを目指すという。発想など、本当にアメリカのラッパーみたいなんです。アイドル的な押し出しはもちろん、センスで勝負している感じがする。

南波

いろいろなグループで活動して、それぞれでインパクトを残しているのもすごいところですよね。

森田

強い女性ですね。男女雇用機会均等法の成立から40年。ようやくここまで来た気がする(笑)。

南波

それから大阪拠点のソロアイドル・文坂なの(*11)さんも注目です。楽曲のディレクションを含め、セルフプロデュースしています。

森田

アップデートされた昭和歌謡やシティポップ系の曲がいいですね。

南波

積極的に面白いクリエイターと楽曲を作っているから常に新しい。中でも、佐々木喫茶(*12)さんが作る曲が好きで、毒々しい曲だったり、すごくポップだったりして。

森田

佐々木さんは、すごい才能の持ち主ですよね。STARTO系の楽曲を手がけたりして、今後も注目です。

滲み出て、広がっていくアイドルの境界線

森田

話題に挙がったME:IやXG、HANAは本来ダンス&ボーカルグループで、アイドルではない。

南波

ただ、XGもアイドルのフォーマットを進化させた延長線上にあるものですよね。ライブへ行った時、ほぼキックとベースだけのトラックの曲で、女の子がキャーキャー言っている。こんな未来が来るなんて思ってもみなかったので感動です。

森田

境界線が曖昧に、滲(にじ)んできているのは間違いない。

南波

過去のフレームに収まらないアイドルも出てきていて。普通に日本の音楽シーンにおいても、重要な人たちだと思う。世界に行ける可能性があるという意味でもHANAなんか、すごく重要だと思うんです。

森田

それからグループの形態自体も、ずいぶん自由になりましたね。BiTE A SHOCK(*13)みたいな男女混成のグループや、lyrical school(*14)にも男性のメンバーが入ったり。面白い動きがありますね。

南波

男性グループだって、STARTOやTOBEはもちろん、インディーズも多く、盛り上がってきていて。これから、どういう楽曲を聴かせてくれるか、楽しみにしています。

森田

最後に、長い間、高いクオリティを維持したまま、活動を続けているベテラングループも応援したい。フィロソフィーのダンス(*15)が24年に出した『NEW BERRY』は、音楽的にも本当に素晴らしかった。もっと広く聴かれてほしい。

南波

Negicco(*16)も、タフですよね。地方アイドルブームって、多分2周くらいしていると思うんだけど、その間ずっと活動して、3人とも結婚と出産を経験して。

森田

いつか来る3周目のブームを祈りつつ、応援していきましょう。

森田秀一が選ぶ令和のアイドルソング

南波一海が選ぶ令和のアイドルソング

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