ブルータス時計ブランド学 Vol.82〈オートランス〉

海より深い、機械式腕時計の世界から、知っておきたい重要ブランドを1つずつ解説するこちらの連載。歴史や特徴を踏まえつつ、ブランドを象徴するような基本の「名作」と、この1年間に登場した注目の「新作」から1本ずつ、併せて紹介。毎回の講義で、時計がもっと分かる。ウォッチジャーナリスト・高木教雄が講師を担当。第82回は〈オートランス〉。

text: Norio Takagi / illustration: Shinji Abe

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時刻表示機構を革新し、芸術性を伴う時計を創る

〈オートランス〉(HAUTLENCE)というブランド名は造語で、創業の地ヌーシャテル(Neuchâtel)のアナグラムである。同地は、スイス時計産業の中核を成すエリアの一つ。ここで育まれてきた伝統的な時計製作技術を継承しながら時間を伝える方法を根本から改革し、「機械的な芸術性を伴う時計の創造」を掲げて2004年に設立された。

その情熱は、2005年にリリースされたファーストモデル「HL01」で早くも結実した。横長レクタンギュラーケースのダイヤルには、ジャンピングアワーとレトログラードデイトが備わり、それぞれのメカニズムをデザインとして大胆に取り込んでみせたのだ。以来、回転する針とは異なるさまざまな時間表示機構で時計ファンを魅了してきた。

こうして順調に成長を続けてきたメゾンだが、スイス時計産業の黎明期から続く名門一族メイラン家が率いるMELBホールディングスでは2012年、〈オートランス〉と〈H.モーザー〉、そして脱進機やヒゲゼンマイのメーカー〈プレシジョン・エンジニアリング〉を傘下に収めることを決定。それぞれが連携をした新体制の構築が推進された。

そして2020年、〈オートランス〉はヌーシャテルを離れ、2つの姉妹企業が拠点とするシャフハウゼンで事業統合された。新体制になっても、創業時からの「機械的な芸術性を伴う時計の創造」という信念は継承。グループ内での技術・生産共有によって、より信頼性の高いユニークな機構を生み出している。

【Signature:名作】スフィア シリーズ2

前代未聞、唯一無二の球体ジャンピングアワー

スフィア シリーズ2

〈オートランス〉は各機構を順に異なる外装に収め、それぞれを限定生産としてきた。スフィアは、2019年に誕生した自社製ムーブメントを搭載し、シリーズ3まで登場しているライン。本作はその第2弾。アイコニックな横長レクタンギュラーのダイヤル右側にレトログラードミニッツを配置。そして左側では回転する球体が時を示す、かつてない球体ジャンピングアワーが備わっている。

数字を描いた球体は3分割構造。内部に備わる21度に傾斜した2つの交差した軸の周りに設置した4つの傘歯車(ベベルギア)が毎正時に球体を回転させる仕組み。クルリと数字が切り替わる動きに、唯一無二の独創性が光る。

限定28本。縦43×横50.8mm。手巻き。SSケース。13,838,000円。

【New:新作】ヘリックス

トゥールビヨンを避ける2つの針の、有機的曲線美


〈H.モーザー〉でも使われている、円筒状のヒゲゼンマイが備わるセンタートゥールビヨン機構に、時・分のダブルレトログラードを統合。鮮やかなブルーに色付けされた時分の各針は、ダイヤル中央のトゥールビヨンを避けるようにカーブを描く様子が美しい。

カーブの重なりが、時間の経過とともにさまざまに変化していく過程は、物理的な動きを導入した芸術作品キネティック・アートに通ずる。さらにダイヤル下部にはレトログラード機構の大半を露わにし、メカニズムをデザインの一部としているのも、〈オートランス〉の真骨頂である。

限定28本。縦37×横45mm。自動巻き。チタンケース。15,048,000円。

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