漫画家・ひうらさとるが、最新作『美男と金子』で伝えたいこと
主人公は40歳バツイチの税理士、金子かさね。慎ましく暮らす彼女の前に、美容系インフルエンサーの“美男(ビナン)”が現れる。ひょんなことからお金のプロ“金子”と美容のプロ“美男”がタッグを組み、お金と美容のお悩み配信を始める──。現在、ひうらさとるが漫画雑誌『フィール・ヤング』で連載中の『美男(びなん)と金子(かねこ)』は、美容とお金をめぐる人間関係、恋、様々な人生を描く。なぜ「美容とお金」というテーマを選んだのだろうか。

『美男と金子』ひうらさとる ©︎ひうらさとる/祥伝社 FEEL COMICS
「2年ぐらい前から、美容とお金の話を描きたいと思って企画を出していたんですが、“お金の漫画はあまりヒットしない”って言われて。でも諦め切れなくて、美容インフルエンサーの人に取材したり、構成を揉んだりしているうちに『フィール・ヤング』の編集さんと意気投合し、今に至ります。私はもともとお金の話をするのが好きなんですが、やっぱり人前でお金の話はしづらいイメージがあったんだと」
笑いながら話すひうらも、もともとお金が得意だったわけではない。1984年、高校生の時に漫画の賞を取り上京し、早い段階で漫画家として独り立ち。25歳までは親が通帳を管理し、仕送りで生活していた。お金に対して意識的になり、勉強を始めたのは30代になりたての頃。初めて不動産を手にした時だという。
「当時は自分で自由になるお金もできたし、周囲の友達がマンションを買い始めたこともあり、そろそろとは思っていました。漫画を描く時もアシスタントが泊まりがけで作業をしていた時代でもあったので、自分用と仕事場用で、小さい部屋を2つ買ってしまったんです。
何も知識がないので、不動産屋に言われるがままに35年ローンを組みました。1年間何も考えず払い続けて、返済予定表を確認した時に愕然としたんです。全然減ってない、と。ということは、35年ローンを払ったら、いくら払うんだろうと考えた時に寒気がして(笑)。
それから勉強を始めました。片っ端から本を読み、いわゆる節約術的なことも試したんですが、そうじゃないなと。まずは根本的な現状把握から始めようと、通帳を貯蓄用と収入・支出用の口座2つに分けました。定点観測してみたら、フリーランスなので、月々の収入は安定しませんが、支出はそんなに変わらないことに気づいたんです。カードの引き落としが終わった後に余った金額を貯蓄用に回す。ある程度貯まったらローンの繰り越し返済をする。そうしたら、6年で完済できたんです!
本当にうれしくて、当時買ったジュエリーのプレートにローン完済日の日付を刻印したほど(笑)。その6年間で本もたくさん読んで詳しくなりましたし、繰り越し返済で数字が減るのが楽しかった。で、お金が怖くなくなったというか、好きになりました」
知識がないままに35年ローンを組んではしまったが、その後勉強をして、自分の中で収入と支出をめぐる、お金の流通システムが出来上がった。ローンも完済し、固定費がグッと浮いた。その後は、不動産を運用したり、NISAやiDeCo等も活用し始める。資産運用が、楽しくなっていったのだ。

美容とお金の類似点。不安を煽るが知れば怖くない
『美男と金子』では、超人気美容系インフルエンサーの美男が金子の勤める税理士事務所に、お金の相談をしに来るところから話が始まる。「……なんか知らんうちにお金って消えません……?」という美男の一言から、金子は何かを察知する。ケタ違いの収入があったとしても、きちんと管理をしていなければお金は消えてしまうのだ。
そして、金子は美男に対し、現在自分が何を所有していて、収入と支出がどれだけあるのか、さらに「どれくらいお金があれば自分は満足できるのか」を知る、“現状把握”の大切さを語る。そして、すべてが簡単に一覧できる家計簿アプリを紹介する。
一方、美容にもファッションにも無頓着で、合理的な生活を好み、仕事一筋な金子に何かお礼をしたいと思った美男は、百貨店のコンシェルジュへと金子を連れていき、最新の骨格診断を基に体形とイメージに合った洋服をプレゼントする。お互いに、今までの人生で知ろうともしなかった、新たな世界への扉を開けたのだ。
「お金」がテーマの作品は難しいと一度は言われたが、この漫画はお金の問題だけではない、「お金」と「美容」が同時並行的に語られている。この2つを一緒に描いた理由を聞いた。
「お金と美容ってすごく似ているところがあると思うんです。まずは人の不安と欲望を煽ること。お金の場合、ローンは大丈夫か?教育資金はあるのか?老後のお金は?といった不安を煽り、都心に豪邸、ブランド品、旅行……のような欲望を煽る。美容もしかりです。また、美しい人やお金持ちって、どこかでズルをしてそうに見えますよね?
こういう人たちはキレイ(お金持ち)になる近道を知っているんじゃないか、私だけが方法を知らないんじゃないかとか。お金と美容って、不安と欲望の間で感情が揺れ動く、その構図がすごく似ているなって思ったんです。なので、漫画では“家計簿アプリと骨格診断”といったように、お金と美容から1つずつキーワードを出して、それを絡めながら物語を作っていったら面白いのではと思いました」
美男と金子は、お互いの知識を知ることで心がほどける感覚を得、2人で発信をしていくようになる。物語はまだ始まったばかりだが、最後にひうらが伝えたいことを教えてもらった。
「美容もお金も、何だかよくわからないけど怖いイメージがある。でも、勉強すれば難しくないし、2つとも人生を楽しくするために、うまく使えるものなんじゃないかと思っていて。重要なのはお金でも美容でもなく、本人の幸せ、ですよね?漫画を通じてそれが伝わったらいいなと思います」
