ないところに、オリジナルの価値を生み出す。みうらじゅんのお金の哲学

いつも新しい視点から発想し、私たちを驚かせる人は、お金についてどんな理念を持ち、日々の仕事に生かしているのか。固定観念にとらわれず新たな道を開拓し続けるクリエイター・みうらじゅんさんに、自身の仕事とお金の関係性について尋ねた。仏像、ゆるキャラ、いやげものなど、世間の常識とはちょっと違うところに価値を見出してきたみうらさん。「どうかしてるよ」とツッコまれながら輝き、仕事を生む“マイ価値”の育て方とは。

本記事は、BRUTUS「お金、はじめる。」(2026年1月13日発売)から特別公開中。詳しくはこちら

photo: Jun Nakagawa / text: Masae Wako

好きを突き詰めることは、投資でもあり、人生でもある

──みうらさんはこれまで仏像、ゆるキャラ、いやげものなど、独自の価値を見出しブームを生み出してきました。「オリジナルの価値を見出す」という感覚は、昔からあったのですか?

たぶん小学生の頃からありましたね。仏像好きになったの、小4の時だから。うちのじいさんに連れていかれた京都の東寺で仏像を見て、その異形に衝撃を受けたんです。手が何本もある観音とか、荒ぶる明王像とか、どんどんのめり込んでお寺を巡り仏像スクラップを作ったり、好きだった怪獣との共通点を勝手に発見して大興奮したりして。クラスの誰とも話が合わなかったけど、自分だけがグッとくる「マイ価値」みたいな感覚があるって知ってたんだと思います。

ところが上京して出会ったいとうせいこうさんにその仏像スクラップを見せたら、「ここまでするなんて、あんたどうかしてるよ!」ってツッコまれた(笑)。生まれて初めてそんなこと言われたものでびっくりして、でも合点もいったんだ。俺、好きがすぎてどうかしてるんだなって。

──結果、いとうさんとの「見仏」活動が仏像ブームを巻き起こしました。

俺の「仏像が好きすぎてどうかしてる」は、いとうさんのツッコミによってエンタメになり、仕事になったんです。仏像をネタに、2人がボケとツッコミを言い合って、それを見てみなさんに笑ってもらう。好きすぎるを進化させ、エンタメにした時、ようやくお金になりました。

ちなみに『見仏記』の新刊は、自分たちのnoteの有料記事で発表したものです。昔から付き合ってくれてる方も多いけど、新しい仏像ファンも増えてますよ。そういう方々からの投げ銭を貯めに貯めて、俺らの見仏の旅費にしました。次は『群像』という雑誌で連載する予定です。

だから、俺の心の中にはずっといとうさんが住んでいて、俺が妙なものを買おうとしたりすると、左耳のあたりから「どうかしてるよ!」ってツッコんでくるんです(笑)。で、俺は「ということはネタに使えるな」って思う。そんなどうかしてる姿を見てもらってお金にするという、かつてはなかった仕事を作ったんです。

事務所の一角。国宝・阿修羅像や吉祥天立像、誕生釈迦仏立像などのレプリカがぎっしり。小学4年生からの仏像好きが仏友・いとうせいこうと仏像を巡る『見仏記』につながった。

──仏像以外のマイブームを突き詰めるにあたっては、どんなふうにお金を使ってきたのでしょうか?

まずはとにかく大量に買い集めます。去年マイブームだったワニも、「なんでゴムワニなんてヘンなものが作られてるんだろう。知りたい。知るためには買わなくちゃ」って、ワニグッズを手あたり次第に買いました。俺はこれを修行と呼んでいるんだけど、巨大なワニ形のビニール浮き輪も、異様にデカいワニがデザインされたラコステのポロシャツも買いました。「こんなに修行してるんだから、俺はワニが好きに違いない」って自分を追い込むわけです。それがたぶん俺にとっての投資なんですよね。ワニ投資。

──ワニ投資というのは、具体的にどういうことをするのでしょう?

「AとBとを結びつけて、答えがABじゃなく、Cになるエンタメができないか」みたいなことを、ずっと考えるんです。例えば香川の金刀比羅宮(ことひらぐう)とか、ほら、全国にもこんぴらさんってあるでしょう?そもそも、ガンジス川に棲(す)む鼻の長いワニを神格化した水神・クンビーラが日本に伝来、「こんぴら」になったんです。クンビーラ、こんびーら、こんぴらといった具合に。

こういう話でワニをもっと面白く紹介できないか考えて、絵や文章を書いたり、最終的には展覧会を開いたり。グッズをエンタメ化して展示もしました。当然、アイデア出しも企画会議も制作も営業もPRも全部自前でやる「一人電通」です(笑)。

2024年の巡回企画展『みうらじゅんFES マイブームの全貌展』。ラコステの服を着たマネキンにワニが群がる「ワニックブーム」コーナー(写真は茨城県〈しもだて美術館〉)。

──一人広告代理店システムを成立させるために大切なことは何ですか?

好きな気持ちだけじゃダメってことですかね。好きなものを集めるだけでは趣味でしょ?きっかけはむしろ、たいして好きじゃないところにあったりします。俺の場合は好きでもないものを無理して集める、その行為が笑いを生むんじゃないでしょうか。

いやげものを見て「いらない」なんて言う人はフツーだけど、そこがいいんじゃない!と、「面白い」まで持っていく。たぶん俺は、マイ価値を見つけるのも好きだけど、マイ価値を集めたり考えたり、好きになる過程を面白がったりしながら、それを変換して仕事にするのが好きなんだと、改めて思います。

買い物の物差しはいつだってLPレコード

──お金のマイルールはありますか?

お金を使う時は、いまだに高校時代のLPレコードの値段を基準に考えてます(笑)。1枚組で2,000円、2枚組で3,000、4,000円程度っていう物差しがある。最近は物の価格が高騰してるから、2,000円のラーメンも「そんなもんかな」って慣れちゃってる人も多いでしょ。でも心に物差しがあると、「これでレコード買えるじゃん」って思いとどまれるんだよね。

今と違って当時のLPは試聴もできなかったから、ドキドキしながら買って、聴いて、「失敗した……」となっても、なんとか好きなところを見つけて「俺はこの音楽が好きなんだ」と思い込む。その感覚が自分の体に染みついているのかもしれません。

「ジョージ・ハリスンが1969年に出した電子音楽のソロLPは、買って大失敗。ヤマト糊のクッションはLP2枚分の価格でした」

──お金に対する不安はありますか?

ずっとフリーランスだから、若い頃は「本業がなくて不安じゃない?」とよく聞かれたもんです。でも人間の本業って仕事じゃなく生きることだから。お金を稼ぐのは副業と思ってます。自分が楽しいと思える人生に近づいていける仕事なら、どういう形でもいいです。

そもそも、世の中の価値でしか物事を判断できないのって、つまらないじゃないですか。テレビの鑑定番組で、高いと思ってたものが安かったって、がっかりしてる姿を見て、むしろ「あの人損してるのが面白いなあ」と思ってしまいます。きっと俺にとって勝ち負けは、「価値」ある負けのこと。負けに価値ありってことなんです。

──最後に、最近買ったものは?

そうそう、おとつい、ワニ展をやってる〈国立科学博物館〉で法隆寺の国宝「玉虫厨子(たまむしのずし)」の玉虫のガシャポンをやりました(笑)。1回500円だから4回でLP1枚分だしなんて思いながら。でもさ、肝は「法隆寺の国宝」って書いてあるところ。俺がやらないわけにいかないってね。

そしたら一発で目当てのものが出た。ただ、実は後ろにちっちゃな子が並んでて、その子が俺の当てたガシャポンを欲しそうにしてたの。普通、大人として振る舞うなら、「どうぞ」ってあげてもいいと思うんです。けどね、俺も真剣だし、彼はただ光る虫が欲しいだけに思えたから、何も言わずスッと立ち去った。優しいじじいだと思うなよ、こちとらアウト老なんだから。ムキになるのも大人げないけど、マイ価値を貫くとはそういうことなんです(笑)。

みうらさんが通ってきたマイブームリスト、その一部

仏像

10歳頃から熱中。寺院のパンフレットを切り抜き感想を添えた仏像スクラップも自作。

『ウシの日』で漫画家デビューした大学3年生の頃、牛グッズの収集家としても話題に。

エロスクラップ作り

エロ本からのスクラップ作り。ヤマト糊L字タイプを駆使して今も続行中、その数857冊。

いやげもの

もらっても困ってしまうみやげものに、“いやげもの”と名前をつけて収集。

ゆるキャラ

ツッコミどころ満載のゆるいキャラクター。2008年新語・流行語大賞にノミネート。

カニパン

冬の時季に旅行代理店が一斉に用意する、表紙がカニのパンフレット。何十年も収集。

地獄表

バスの本数が地獄のように少ない時刻表。山形へ即身仏を見に行き出会ったのがきっかけ。

打ち出の小槌

大黒天が持つ小槌を集めるうち、「この形はドライヤーのルーツでは」と妄想するまでに。

鹿

春日大社の神鹿に嚙まれ、「人生ビビッてねえか?」と言われた気がしてマイブーム到来。

ワニ

第23回みうらじゅん賞は熱川バナナワニ園に。公式キャラ・熱川ばにおグッズも大量購入。

〈ファイナンシャルアカデミー〉代表・泉正人さんによる副音声

No.1046「お金、はじめる。」ポップアップバナー
TAG

SHARE ON

FEATURED MOVIES
おすすめ動画

BRUTUS
OFFICIAL SNS
ブルータス公式SNS

SPECIAL 特設サイト

FEATURED MOVIES
おすすめ動画