映画に、すんなり組み入れられない人
「海外の映画祭に初めて行ったのは、今村昌平監督の『カンゾー先生』で、カンヌですか。次の年に小林政広監督と、またカンヌ。あとは李相日監督と『許されざる者』でヴェネチア。今回がロンドン。2400人くらいかなぁ。大きな会場でした」
そう淡々と語る俳優の柄本明さん。2026年2月に公開された『レンタル・ファミリー』は、レンタル家族を題材として東京で撮影されたハリウッド映画だ。柄本さんは、かつて大御所俳優だったが今は家族から心身の健康を心配される老優・喜久雄を演じた。
「落ちぶれているわけじゃないけれども、かなり高齢だという。まあ、俳優が俳優の役を演じるということで、野球選手を演じるわけじゃないんで(笑)、そういったところでの入りやすさはありますよね」
常にいつも通り。その話しぶりに、これまでスクリーンで観てきた、自然体なのにどことなく底が知れない俳優・柄本明としての存在感が重なる。『レンタル・ファミリー』の劇中でも、何事もないかのように過ごす喜久雄が、ある瞬間に別人の顔をして歩き始めるという、物語の雰囲気を変えてしまうシーンがある。
「海外製作の映画は英語が飛び交うし、いつもとは違います。ただ、こっちはお芝居をして、キャメラがいて、照明がいて、録音がいて。それは変わりませんから。台本通りに、やっています。と、言うと、非常にぞんざいに聞こえるんだけども、まずは台本に書いてあることをやりながら、長谷川喜久雄はどういう人物かと探しながらね。監督さんも見ながら、ああしたら、こうしたらと進んでいく。それが映画かなと」

映画は俳優だけのものではない。そのうえで、柄本さんの心に今も残る俳優とは、一体誰なのか。
「いっくらでも出てくるな(笑)。『ソイレント・グリーン』のエドワード・G・ロビンソン。『誰が為に鐘は鳴る』のエイキム・タミロフ。日本映画なら、気分で言いますよ。殿山泰司さん。主役じゃなくてもいいんでしょ?」
殿山泰司といえば、小津安二郎、新藤兼人、大島渚ら、名だたる名監督の作品に出演した名優である。
「子供の頃に初めて観た時、この人はなんて下手なんだろうって思いましたよ。何をやっても一緒で。でも、ずーっと観ていると、そういう問題じゃないって気がつく。映画の中に組み入れられているようで、すんなり組み入れられないような。そんなにおいを出してくる方、かなぁ。
そんなことを言っていても、原節子さんなんか出てきた日にはね。もうどうしようもないですよ(笑)。組み込まれている良さもあるし、反発して光り輝く人もいるし。個性なんですかねぇ。マルコヴィッチもだし、はは、ダメだね、いくらでもいます」
殿山泰司の一本

電気もガスも、水道もない孤島で、自給自足の生活を行う4人の家族の暮らしと葛藤を描いた作品。家族の父親を殿山泰司が演じた。モスクワ国際映画祭グランプリをはじめ、世界60ヵ国以上で上映され、海外から注目された作品でもある。©近代映画協会