「蒲田という街は、なんというか“肩の力の抜けた東京”だと思う。オシャレや流行とは無縁だけど、だからこそ妙に居心地がいい。駅前に立つだけで、昼から飲んでいる人、職業不明の風変わりな人たちが行き交っている。昭和で時間が止まったような喫茶店や定食屋、そして居酒屋。そんな街にいると、気づけば自分の肩の力まで抜けて、素の顔になっている。なぜなら周りには自分以上に肩の力の抜けた、超「素」の人ばかりだから。そのゆるさと包容力が、もはや東京では稀少である。
それに何より、飯がうまくて酒がうまい店が多い。しかも安い。混沌とした街並みの中で一杯ひっかけ、ほろ酔いで夜風にあたると、不思議と心がほぐれていく。『今日も生きててよかった』『明日も生きてていいんだな』と思えてくる。僕にとって蒲田は、治療とかリハビリに近い、“飲酒OKの総合病院”みたいな場所です。これからも、あまり変わらないでいてほしい」
上海わんたん 食彩厨房
常識が崩壊する、小籠包みたいなわんたん
蒲田小学校や蒲田中学校がある平和な住宅地のなかに現れる、わんたん専門店。わんたんと聞いて想像する薄べったさからは程遠く、プリプリモチモチの滑らかな薄皮の中に、うまみの塊のような大きな餡がこれでもか!というほど包まれているのがここの特徴。店主の妻が上海出身だからこそ作れる、本場・上海の味だ。
スープも、飲み干さずにはいられない魔性のうまさ。上海では普通、お湯に調味料少々加えたシンプルな味付けだが、スープにこだわる日本人のために、濃厚なとんこつベースに仕立てられている。現在、イートインは休止中でテイクアウトのみ。近くの呑川沿いで風にあたりながらいただくと、ささやかな幸福感に浸れる。
和菓子処 清野
長崎カステラから温泉まんじゅうまでが揃う和菓子屋
創業者は、昭和天皇への献上品も焼いていた、生粋の長崎カステラ職人。由緒正しき老舗が気取らぬ表情で佇んでいるのも、蒲田の街の侮れないところである。2代目になった今でも、卵のコクとうまみが凝縮された“長崎かすていら”や、カステラの原形といわれる素朴なポルトガル菓子“パォン・デ・ロー”が双璧をなす人気ぶりだ。
時代の流れとともに、どら焼き、フルーツ大福、近所の『蒲田温泉』とコラボした温泉まんじゅうなどの庶民的な和菓子も並ぶように。そのどれもが細部まで神経が行き届いた、惚れ惚れする味わい。甘さの加減がなんとも絶妙で、普段甘いものを食べない人にも大感動が待っている。
あすへ 走れ
今にも夜の街に繰り出しそう?な、少年少女の銅像
屋上遊園地『かまたえん』があったり、タイヤだらけの『タイヤ公園』があったりと、散策するだけでもたのしい街、蒲田。JR蒲田駅西口のロータリーでも、少年少女の銅像と出会える。1993年に地元の民間団体〈ライオンズクラブ〉の30周年記念として寄贈されたものらしいが、作者は不明。詳しい情報はなくとも、蒲田の広大な空に向かう姿に、「ああ、蒲田に来たんだな」と心がほぐれる人も多いとか多くないとか。
少年と少女が健全に走る姿なのに、なぜか「このあと二人で一杯やりに行くんだろうな」と思わされる空気感も漂う。たぶんそれは、飯がうまくて酒がうまいこの街の、魅力であり魔力なのだろう。
聖
気軽に入ると異国に誘われる台湾居酒屋
JR蒲田駅東口から徒歩2分。外観は、なんの変哲もない居酒屋のようでふらりと入りやすいが、その実は別世界。台北出身の店主とその奥様で2017年から営んでいる本式の料理屋で、台湾料理一色のお品書きには異国情緒が溢れている。
醤油ベースの特製ソースで炒めた香ばしい台湾そうめんに、白身魚と黒豆と豆腐の蒸し料理などなど、なにを頼んでも想像の斜め上をいく完成度。本格派でありつつも、八角は控えめでスパイシーさが抑えられた味付けなので、日本人の舌に沁み入り、懐かしさもある。さらに、奥様の朗らかな接客も相まって、胃も心も和やかに。もし近所にあったら毎週通っちゃうこと必至。
銀座和蘭豆 蒲田駅前店
蒲田がいい街であることを示す、駅前の喫茶店
銀座で1969年に誕生したのち、蒲田でも1972年に創業した、伝統ある喫茶店。自他ともに認める看板メニューは、酸味と甘味とコクのあるモカを丁寧に自家焙煎したアイスコーヒー。生クリームを浮かべ、自家製シロップを注ぎこんだひと手間で、味わいに深みが増す。繊細な風味を保つためにサイフォンで淹れたホットのブレンドコーヒーも、香り高き一杯だ。
古きよき昭和の薫りが自然と残っているのも、愛され続けるゆえん。狙っても出せない居心地のよさがあり、お客さんの顔もどこか穏やか、気づけば時間の感覚もゆるんでしまう。こんな喫茶店が駅前にある蒲田は、間違いなくいい街といえるだろう。






















