坂本龍一の最期の日々を記録した映画が公開中。朗読を担当した田中泯が語る、作品の中の美しい音

美しい映画は、美しい音とともにある。病と闘いながら制作を続けた音楽家・坂本龍一さん。その最期の日々を記録した映画は、まさにそのことを考えさせる作品だった。日記の朗読を行った田中泯さんに語っていただいた。

photo: Keisuke Tsujimoto / styling: Kyu(Yolken) / hair&make: Raishirou Yokoyama(Yolken) / text: Katsumi Watanabe

「意味より音の方が大事な時がある」

2025年11月28日に公開された映画『Ryuichi Sakamoto: Diaries』の中で、坂本龍一さん自身が重大な決意を綴った日記や、なにげない気持ちを記したメモといった文字を、舞踊家の田中泯さんが自らの声で表現することになった。つまりこの作品は、病と闘いながら日々を過ごす坂本龍一さんの姿が、田中泯さんの声=音と重なる映画でもある。

「書き言葉の意味や感覚を読み取り、音声で発することは、無限に解釈ができるので大変でもありました。言葉の密度、しゃべる時の気持ちの方針を固めるため、少しうろうろして悩みました」

そして完成した朗読は、乱れることなく、ゆっくりと読み上げられた。「言葉の本来の意味が重要なのではなく、聞き手の感覚を動かすような音、発声があると思っているんです。今回の作品なら、“みかん”という単語一つにしても、僕が言うものと、死に向かっている人の“みかん”では決定的に違うと感じました。そうした意味を踏まえ、観る人の体の中に、しっかり音の感覚が伝わるように発声をしようと心がけたんです」

田中泯
ジャケット157,300円、シャツ61,600円(共にY's for men TEL:03-5463-1540)、パンツ66,000円(Yohji Yamamoto POUR HOMME TEL:03-5463-1500)

さまざまな感情を内包しながらも静かなナレーションは、映画全体のトーンにも影響を与えている。「話し方は事前に決めていましたが、本番は映像を観ながら朗読するため、都度、心が動く。集中して自分の声に耳を澄ますと、ほんの少し声の強弱やタイミングをいじることができる。ダンスと同じアドリブかな」

高橋幸宏氏の訃報を綴った日記を読む場面、声が乱れた気がした。「トーンは統一したので、そんなことはないと思います。音を受け止めたあなたの気持ちが動いたのでは?ならば成功です。映像と声が同期して、より深く作品の意図を伝えることができたのかなと。意味よりも、音の方が大切な時もあるんです」

『Ryuichi Sakamoto:Diaries』
『Ryuichi Sakamoto:Diaries』(96分/'25)監督/大森健生
2023年に永眠した音楽家・坂本龍一。3年半にわたる闘病生活、その最中の創作活動などの記録。本人が克明に綴った日記や、遺族の全面協力の下、提供された映像やポートレート、未発表の音楽を束ねて完成したドキュメンタリー。11月28日公開。
©“Ryuichi Sakamoto: Diaries” Film Partners
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