黒の牛
'26 1/23公開
天然のコントラストが美しい大自然の中、男は牛と出会う
監督／蔦哲一朗（114分／'24／日台米合作）
時代が巡り、大自然の中で暮らすという生き方を見失った狩猟民族の男（リー・カンション）。男はある日、自分の分身とも思える黒毛の牛と出会う……。
禅の世界に伝わる、悟りに至るまでを絵と詩で表現した中国・宋代の「十牛図」にインスピレーションを得た映画。山水画や水墨画をイメージし、モノクロパートは35㎜フィルム、カラーパートは70㎜フィルムで撮影された美しい映像が圧巻だ。
監督は、徳島の大自然を35㎜フィルムで捉えた自主製作映画『祖谷物語－おくのひと－』（'13）が国内外で話題となった蔦哲一朗。『西瓜』（'05）などで知られる台湾の名匠、ツァイ・ミンリャン監督作の出演で知られる俳優のリー・カンションは、監督の蔦が自ら会いに行きオファーした。舞踊家の田中泯が禅僧を演じる。楽曲提供を予定していながら逝去した坂本龍一との約束は、最後のアルバム『12』から選曲という形で果たされている。
クリスマス・イブ・イン・ミラーズ・ポイント
'25 11/21公開
気鋭の映画制作コレクティブが描く、懐かしく新しい聖夜
監督／タイラー・タオルミーナ（108分／'24／米）
アメリカのロングアイランドで4世代続くバルサーノ家は、もしかすると最後になるかもしれないクリスマスパーティを開催する。しかし、聖夜には何かが起きるはずと落ち着かないティーンエイジャーたちは、こっそり家を抜け出す……。味わったことがないのになぜか懐かしい、詩情溢れる映像が美しい。
劇中に登場するレイ叔父さんが実は小説を書いており、10代の甥に打ち明けるシーン。これはタイラー・タオルミーナ監督の実体験が基となっている。「自分の環境に逆らうような、“秘密の夢”を抱いて生きるすべての人たちへの敬意」を表現したと語る。タイラー・タオルミーナはほかに脚本、製作、サウンドデザインのほか、ベーグルを盗みかける役で出演もしている。
本作の上映と併せて彼が所属する、今国際映画祭を中心に注目を集めつつあるLAの映画制作コレクティブ〈オムネス・フィルムズ〉の特集上映も各地で開催中。
ポンヌフの恋人 4Kレストア版
'25 12/20 公開
盛大な花火の中、踊る2人が34年の時を経て美しく蘇る
監督／レオス・カラックス（125分／'91／仏）
フランス史上最大のオープンセットで撮影され、こだわるあまりに製作費が膨れ上がり、何度も撮影が中断したという伝説の映画、『ポンヌフの恋人』。それが今年、フィルム修復を受けて新たに蘇った。
パリで最も古いポンヌフ橋のそばで暮らす大道芸人の青年アレックス（ドニ・ラヴァン）は、ある日、失恋のショックと目の病による絶望から街をさまようミシェル（ジュリエット・ビノシュ）と出会う。
監督のレオス・カラックスはかつて「僕が最も撮りたいと思うのは、躍動感と震えるような感覚だ」（『レオス・カラックス映画の二十一世紀へ向けて』）と語ったが、その両方が叶ったのが、フランス革命の200周年を祝う夜の街に盛大に打ち上がる花火の中、2人がダンスを踊るシーンだ。この場面が今回どのように美しく蘇ったのか、スクリーンで確かめたい。
フィルムの修復は、カラックスとも組むことのある撮影監督、キャロリーヌ・シャンプティエが監修した。
ペリリュー ―楽園のゲルニカ―
'25 12/5公開
やっぱり、生きて帰りたい。大自然を背に描かれる戦争
監督／久慈悟郎（106分／'25）
太平洋戦争時。すでに日本の戦局が悪化していた時期、激しい前線の一つであった「ペリリュー島の戦い」と、終戦を知らずに2年間ジャングルの中で潜伏した兵士たちを描く、戦火の友情物語。漫画雑誌『ヤングアニマル』で連載された武田一義による同名の漫画をアニメ映画化した作品。
主人公は21歳で漫画家を志していた田丸。彼は、仲間の最期の勇姿を遺族に向けて書き記す「功績係」という特別な任務を命じられる。相次ぐ戦闘の激しさと戦争が生む悲劇を、南国の大自然とともに描いた本作。
親しみやすい三頭身のキャラクターが、悲惨な戦場で生きるために死線をくぐる姿は、涙なくしては観られない。その悲壮さを際立たせる美しい自然のリアリティを追求するため、監督の久慈悟郎は実際にパラオ共和国のペリリュー島を訪ね、日の強さや植生を現地で見て製作に臨んだ。田丸の声を板垣李光人が、相棒の吉敷は中村倫也が務める。
