フランスの名優、イザベル・ユペールが語る、ホン・サンス映画のユーモア

イザベル・ユペールは、70歳を超えた今も世界を股にかけて活躍する、フランスを代表する俳優だ。ベテランから若い才能まで彼女へのラブコールは引きも切らない。そのユペールが、舞台『Mary Said What She Said』のためにこの秋来日した。分刻みのスケジュールの中で、彼女が3度目の出演をしたホン・サンス監督の映画『旅人の必需品』について話を聞いたのだが、開口一番「映画でも飲んだマッコリが気に入ってしまって。甘いから何杯も飲めちゃうのよね」と笑った。彼女のエネルギーの源は、こんなところにあるのかもしれない。

photo: Kazufumi Shimoyashiki / hair&make: Eita / text: Mikado Koyanagi

人間とはかくも可笑しい、とホン・サンスは語りき

月刊ホン・サンス』なる企画がスタートした。このところ、年2本ペースで映画を撮っているホン・サンス監督。2024年のベルリン国際映画祭で銀熊賞に輝いた『旅人の必需品』を皮切りに、何と計5作品を月に1本ペースで公開していくという。

その『旅人の必需品』の主演を務めたのは、『3人のアンヌ』『クレアのカメラ』に続いて、監督とは3度目のコラボレーションとなるイザベル・ユペールだ。今回は、韓国人に風変わりな方法でフランス語を教えながら、ソウルを旅するミステリアスなフランス人女性イリスを演じている。ユペールに、ホン・サンス映画の魅力について聞いた。

「『3人のアンヌ』に出演する前から注目していました。ホン・サンス映画では、出演者たちはみな饒舌におしゃべりをしますよね。でも、本当に言いたいことや思っていることは別にあるような印象を受けます。監督の映画では、人間の本質とか、人間関係において、常にユーモアが伴っている。そこには、メランコリックな部分も、知的な部分もあって、それが映画に滲(にじ)み出てくる」

ホン・サンスの映画では、シナリオは撮影前日か当日に渡されるというのは有名な話だが、ユペールがかつて何本かの映画に出演したゴダールもそうだった。

「確かに共通点はありますね。でも、ホン・サンスのシナリオは、アイデアブックのようなゴダールのとは違って、台詞(せりふ)がしっかり書かれているんです。そして、それがすべて核心を突いてくる。量も多くて大変なんですが、それは私たち俳優にとって、むしろとても心躍ることなんです」

ユペールは、ホン・サンス作品においていつも旅人を演じてきた。

「私が思うに、私の目を通して、その国やその場所を新たな目で発見しようとしているのではないでしょうか。ちょっとした違和感とか違いを通して。それが監督の狙いかなと」

『旅人の必需品』
ホン・サンス監督の31作目の長編映画。主演イザベル・ユペール、共演にイ・ヘヨン、クォン・ヘヒョ。本作含め『小川のほとりで』『水の中で』『私たちの一日』『自然は君に何を語るのか』の計5作を連続上映する『月刊ホン・サンス』は、ユーロスペースほか全国で順次開催中。
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