「安いサンダルっていうのはイメージがはっきりあったんです」。松任谷由実が愛を歌うときは

「DESTINY」を日本のラブソングの1位に選出したことをユーミン本人にお伝えしたところ、インタビューが実現。今振り返る当時のエピソード、そして、過去の自分自身との対話によって生まれた最新作について。

photo: Kazufumi Shimoyashiki / text: Ryohei Matsunaga

(「DESTINY」が1位になったのは)超光栄!同じ地平を目指してる雑誌だと感じてきた「BRUTUS」だから、なおさらうれしい。

歌って我が子のようなもので、私はいろんな子供を産んできたんですよ。最初からすごく優秀な子、自分ではかわいくてしょうがない子、里子に出て立派に育っていった子とかね。その中で、「DESTINY」はシングルカットでもタイアップ曲でもないし、何にも手をかけてない。なのに必ずライブには一緒についてきて、盛り上げてくれる奇特な子です(笑)。

ただ、振り返ってみても、作ったときはそんなにウケるとも考えてなかった。歌入れ直前に「安いサンダル」の前の「どうしてなの」と「今日にかぎって」の順番を変えたのも、音律として「どうしてなの」が先の方が自然だと思ったからかなあ。

「安いサンダル」で、思い浮かべた銘柄はありました。エスパドリーユとかのイケてるブランドじゃない。合皮で、トイレで履いてもおかしくないような、だけど、ロゴは付いてるタイプ(笑)。でも、私の意図とまったく同じでなくても「そういうことあるある」になっていくというか、繰り返しライブでやっているうちに曲を聴いたみなさんが場面を想像して、それぞれの画(え)にしてくださったんだと思います。念写に近いものかもしれない。

そういうことが私の曲で起きやすいのは、私がきっと、ちっちゃな感動をしやすいタイプだから。ほかの人はスルーしちゃうことなんだけど、私の胸に響いてるということはいっぱいあると思います。

シンガーソングライター・松任谷由実 直筆の歌詞
本人直筆の歌詞。「どうしてなの 今日にかぎって」の名フレーズは当初は逆の語順だった。

そして、ラブソングでは、そのものズバリの言葉を言わずに済ませたい。それが粋ってものじゃないですか。目下、自分にとって会心のラブソングは、ニューアルバム『Wormhole』収録の「天まで届け」です。「ANNIVERSARY~無限にCALLING YOU」を超えたなって自分でも思ってます。

今回のアルバムでは、荒井由実時代から90年代あたりまでの私の声をAIに学習させて、今の私と共演するというチャレンジをしてるんです。

仮歌の段階ではAIの荒井由実にラララと歌ってもらい、そこにアレンジが加わっていくのを聴きながら今の私が歌詞を作ったり、ずっと使ってなかった高い音域での曲作りを久しぶりにやってみたり。全体を通して「聴いたことないけど懐かしい」という新体験をしてもらえるんじゃないかと思います。歌詞の面でも、ラブソングを多く書いていた頃の気持ちが甦(よみがえ)りました。

最近は恋愛に臆病な人も多く、ラブソングもあまり生まれないと言うけど、時代は変わっても人って集まりたかったり、誰かといたかったりするでしょう?それに最近の曲ってすごく言葉の譜割りが速いけど、曲の中にはちゃんと切なさがある。

やっぱり、その刹那、その一瞬を切り取ることなんですよ。ラブソングで大事なのは、結末じゃなくて、その瞬間。脈絡のない言葉でも、音律に乗せたときにそれが一つの瞬間になって永遠に残るんです。その瞬間を感じられるという部分は、昔も今も同じじゃないですか?

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