「ラブソング以外の歌って、何がある?」
ラブソング以外の歌っていうと何がある?『万葉集』の時代から歌といえばラブソングでさ。日本最古の歌はスサノオノミコトが詠んだ和歌なんだけど、そもそもそれが妻への歌だった。知ってた?
恋と聞いて真っ先に浮かぶ歌は斉藤由貴の「初戀」。よく勘違いされるけど、いわゆる“初恋”の歌じゃないんだ。何度恋をしても、新しい恋は常に初恋だって意味。ほかにも「天国のキッス」がキラキラした恋を描いているとしたら、それは松田聖子のせいかもね。あの頃の聖子はとにかくキラキラしてたから。
忘れよう そう思うたび
斉藤由貴「初戀」
不思議なの 胸が痛くなる
同じ聖子でも、「赤いスイートピー」で書いたのはもっとピュアな恋。今の世の中だと、例えばトー横キッズが騒がれたら、あの世代はみんなそうじゃないかって誤解する。でもそんなことないわけ。「赤いスイートピー」は、知り合って半年過ぎても、手も握らない人たちはいるよっていう歌。そうであってほしいなという願望も入ってる。
「あなたが時計をチラッと見るたび」の「時計」は、みんな腕時計を想像するみたいだけど、駅のホームの時計なんだ。女の子はさ、相手の視線が自分の後ろに逸れただけで、時計を見たのかもって心配する。それがかわいいでしょう?
何故 あなたが時計をチラッと見るたび
松田聖子「赤いスイートピー」
泣きそうな気分になるの?
そういうちまちましたことばかり詞にしてるから、たまにはストレートなことを書こうと思ったのが「スローなブギにしてくれ(I want you)」。男の視点で書いたラブソングだけど、僕にとっては男も女も大差ない。ただ男言葉ってだけでね。この歌みたいに、ハードボイルドって実はめそめそした男の話なんだ。
Want you 弱いとこを見せちまったね
南 佳孝「スローなブギにしてくれ(I want you)」
強いジンのせいさ おまえが欲しい
「雨のウェンズデイ」に出てくる「壊れかけたワーゲン」は、たしかに実体験とつながってるけど、ワーゲンで湘南に行ったってだけ。でもまあ種がある方がいい花は咲く。想像だけで書くと説得力がないじゃない?実体験と少しだけつながってるのがいいよね。どっぷりつながってる歌もいっぱいあるけれど、どの曲かなんて言えっこないじゃん(笑)。
昔話するなんて 気の弱い証拠なのさ
大滝詠一「雨のウェンズデイ」
傷つけあう言葉なら 波より多い
薬師丸ひろ子の「探偵物語」はかなわぬ恋の歌。恋ってたいていかなわないものだし、恋が成就しても必ずうまくいかない部分があるわけで、そういう詞の路線が僕にはある。はっぴいえんどの「かくれんぼ」に始まって、「探偵物語」も「雨のウェンズデイ」も、同じモチーフから出てきたすれ違いソングだよ。
自信はないけれど
薬師丸ひろ子「探偵物語」
好きよ……でもね……
たぶん……きっと……
「木綿のハンカチーフ」は失恋の歌なのかな?わからないね、あのあと再会したかもしれないし(笑)。この歌を書いた頃の日本のラブソングは、大袈裟に泣いたり、叫んだり、うるさかった。でも実際はもっとさばさばしていたよ。この歌のように、地方から上京して遠距離恋愛をしていた男のモデルもいっぱいいた。それを詞にしたら、筒美京平さんの曲が良すぎて売れちゃったんだ。
恋人よ 君を忘れて
太田裕美「木綿のハンカチーフ」
変わってく ぼくを許して
こうすればいいラブソングが書けるっていうのは、だいたいわかるけど、教えろと言われても無理。手慣れた方法で仕事しないように、常に空っぽにしておくからさ。すると、詞の書き方を常に忘れちゃう。だから僕がラブソングの書き方を教わりたいくらいだよ(笑)。
