「好意的な言葉で紡ぐだけが、ラブソングではない」。作詞家・高橋久美子、歌人・岡本真帆が愛を歌うときは

チャットモンチーの元ドラマーで作詞担当、現在は作家、作詞家として活躍する高橋久美子。そしてチャットモンチーの大ファンだったという歌人、岡本真帆。常に「言葉」に向き合う2人がラブソングを語り合う。

photo: Madoka Shibazaki / hair & make: Okamoto: Yu hotta / text: Mie Sugiura

高橋久美子

もうね、ラブソングに限らず、歌ってそもそもが愛じゃないですか。歌うという行為、音楽を紡ぐという行為もそうだし、それを誰かに届けたいと願うこと自体が愛なんだよなあって思うんですよね。だから私は、世の中にある曲のほぼすべてはラブソングだと思うんです。

岡本真帆

私も言葉を扱う人間として、歌詞に影響を受けることが多いんですけど、歌詞って、不在のあなたへの手紙のようだと思っていて。ここにいない誰かのことを思って書くものというのは、やはりラブソングになるんだなと思います。どれだけ自分の記憶の中の「あなた」と向き合っているかが、歌詞の深さにつながってくるような気がしますね。

高橋

そこにいない「あなた」を思う歌詞には、「恋」が「愛」に発展していく過程のようなものもありますよね。私が原田知世さんの曲に書いた「一番に教えたい」という歌詞があるんですけど──。

岡本

わ。私も今その歌詞の話をしようと思っていたんです!高橋さんが最近作詞されてる曲もいろいろ聴かせていただいていて、この曲がすごく胸に響いたので。

なんでもないことだから
一番にあなたに教えたい

原田知世「一番に教えたい」

高橋

嬉しい(笑)。「なんでもないことだから 一番にあなたに教えたい」っていう歌詞が、私も気に入っていて。ほんとになんでもないことを「これ伝えたいな」と思えるというのは愛だと思うんですね。

例えば朝起きて庭の木を見たら枝が伸びてて、「これ切らなあかんよな」っていうような、本当にたいしたことのないことでも伝えたくなる。こういう日常の些細な愛情を描くのもいいラブソングだなって思ったりします。

岡本

自分自身が失恋したとき、すごくおいしいパン屋さん見つけたよとか、この坂道で見た雲がすごく綺麗だったよってことを伝えたいと思っても、もうその相手も、それを伝えられる自分もいなくなったんだなって強く感じたことがあって。この曲を聴いていて、その感覚がタイムカプセルを開けたかのように鮮やかに蘇ってきました。

「夜が暗いこと」という歌詞からも、楽しいことばかりじゃないことは窺えるんだけど、それも含めいろんなことを伝えたり、会いたいと思える人がいる。そんな存在に出会えたこと、今も思い出に触れられること自体が、人生の不思議であり、喜びなんだとしみじみと感じました。それもきっと愛なのかなって。

高橋

でもやっぱりラブソングはメロディの力も大きくて。音が言葉を後押しするというか、ドラマの途中でピアノが鳴りだすとほろほろと泣いてしまうのと同じで、メロディやサウンドアレンジ、歌唱も加わって、さらに心を動かすものになるんですよね。実は言葉よりも音の方が感情を引き出しているのかもしれない。

歌人・岡本真帆 作家、作詞家・高橋久美子
左から/岡本真帆さん、高橋久美子さん。

短歌も歌も、詠む、歌うという行為そのものが愛

岡本

私、チャットモンチーの大ファンだったので、解散前、ラスト(2018年)の日本武道館公演にも行ったんです。そこで「砂鉄」の演奏を聴いてボロ泣きしてしまって。

高橋

あらあら。

岡本

「砂鉄」はすでにチャットを脱退した高橋さんが、バンドのラストアルバムの収録曲として、一曲、作詞を手がけたものですよね。どういう経緯で書かれたんですか?

高橋

すでに解散が決まっていた段階で、「一曲書いてもらえないか」と依頼されたんです。全然テーマとかもなく、「なんでもいいよ」って。

岡本

歌詞を先に?

高橋

そう。チャット時代はほとんどが詞先で、「こういうものを書いてほしい」と打ち合わせをすることはまずなくて。ツアー中は移動のときに書くことも多くて、宿泊先で隣の部屋のメンバーに向けて、歌詞を書いた紙を扉の下の隙間からシャッて入れたり。それでしばらくすると隣の部屋から空気孔を伝って曲が漏れ聞こえてきたりするんです(笑)。

岡本

かっこいい!私、「砂鉄」の「好きでも嫌いでも 好きさ」っていう歌詞は何度聴いてもいいなと思っていて、これは仲間に向けたラブソングだなと思って聴いていました。きっとチャットモンチーにとっても大事な曲になったんだろうなと。

高橋

ありがとうございます。そうだねえ。ほんとに正直な歌。

だめでもだめだめでも 許すよ
それだけ忘れないで

チャットモンチー「砂鉄」

岡本

これも愛の歌ですよね。「だめでもだめだめでも 許すよ それだけ忘れないで」っていうところも絶妙なエールであり、仲間との日々を肯定する言葉だなって。ただ相手を褒めたり、すべて好意的なことで表すだけが愛じゃないというか。

高橋

そうなんだよなあ。ラブとは愛と情なんですよね。

岡本

許すということも愛には込められているのかなと思いますね。ほんと、これも大好きな曲です。

高橋

岡本さんも短歌で愛や恋を書いたりしていますよね。「もうキミが来なくたってクリニカは減ってくひとりぶんの速度で」っていう短歌が、私はすごくいいなと思っていて。この歌にはすごく愛を感じます。

岡本

振り返ってみれば、これも不在のあなたを思って書いたラブソングなんですよね。短歌って意外とシンガーソングライター的です。

高橋

ね。そういうことなんですよね、ラブソングって。やっぱり短歌も歌も、詠む、歌うという行為そのものが愛なんだと思います。

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