「愛に関する表現を人に任せたくないんです」。折坂悠太が愛を歌うときは

折坂悠太の歌は、世間一般で言われるラブソングからは遠かったかもしれない。しかし最近、彼の歌が変わってきた。折坂さんが今考える「ラブソング」とは。2025年の9月に開催されていたツアーの北海道・札幌公演のライブに潜入し、その思いを聞いた。

photo: Ryoichi Kawajiri / text: Hajime Oishi

今回の『らいど』は2023年以来の弾き語りツアーです。2023年のツアーは活動10周年企画としてやったんですが、それをライフワークとしてやっていこうということですね。ふだんバンド編成でもライブをやってるんですけど、その曲の持つ性質みたいなものが一番わかりやすく出るのは弾き語りという形態なのかなと思います。

最近のライブでは終わったあとに達成感を感じることが少なくて。それはライブという行為が日々の営みの一つになったということだと思うんですよ。今回の北海道では3ヵ所で演奏したんですが、最初の函館公演は飛行機が遅れてバタバタしてたんですね。

でも、ステージに上がると落ち着くんです。やる前はそわそわするんですけど、本番が始まると「自分の居場所はここなんだ」と確認することができる。今回の北海道ツアーは全部初めてやる会場だったんですけど、それは初めて行く場所であっても変わらないですね。いろんな方の協力で落ち着ける場所にしていただいてるなと思います。

シンガーソングライター・折坂悠太

自分の歌にもラブソングは結構ありますけど、ラブソングと聞いてパッと思いついたのがヴァン・モリソンの「Crazy Love」です。ヴァン・モリソンってバーンって声を出すシャウト系の人ですけど、アルバムの中でもこの曲だけか細くて優しい声で歌ってるんですよね。自分の好きなラブソングの特徴として、そういうふうに「高らかじゃないもの」という共通点があるかもしれません。

愛を歌うときは、できるだけささやくように歌いたい。愛というものを大きな声で歌ってしまうと、私は少し怖くなってしまうんですよ。

例えば、私の曲にbutajiさんと作った「トーチ」という曲があるんですけど、その曲も大きなくくりで言えばラブソングかなと思うんですね。他人の苦しみや孤独をすべて理解することはできないけれど、どうやったら同じ世界で生きていくことができるのか、どういうふうに言葉を尽くすことができるのか。「トーチ」を作るときはそういうことを考えていたと思います。

自分で何か歌うときも決して大きな物語ではなく、1対1のことを考えるようにしています。だから「トーチ」でも「お前だけだ その夜に あんなに笑っていた奴は」と歌いました。孤独な人同士の視点で見ると、そこに互いを救うような関係性が立ち上がってくる気がするんですね。

街はもう変わり果てて
光も暮らしもない夜に
お前だけだ その夜に
あんなに笑っていた奴は

折坂悠太「トーチ」
2019年、折坂のツーマンツアーにbutajiが参加した際に作られた楽曲。折坂が作詞、butajiが作曲を担当。20年に配信リリース。

理想のラブソングは大きい愛で回収しない歌

ラブソングという観点からすると、このあいだスタッフから教えてもらった戸張大輔さんの「無題4」っていう曲もめちゃくちゃ良くて。曲中で「愛してる」っていう歌詞が繰り返されるんですけど、この曲以外のアルバム収録曲は全編アバンギャルドな感じなんですよ。でも、「無題4」だけホッとするような曲で。ヴァン・モリソンの「Crazy Love」しかり、私はそういうものにぐっときちゃうんです。

大きい愛で回収するんじゃなくて、俺だけが知ってる場所、お前だけがいる場所というか。自分にとってラブソングの理想像はそういうものなんです。

(アルバム『呪文』に収められた)「ハチス」の「きみのいる世界を『好き』ってぼくは思っているよ」というフレーズも確かにラブソング的かもしれないですね。あと、私の曲で言えば「抱擁」には「選べぬ朝を迎え 気付きだした ひとつのこと キスをあなたに」という歌詞がありますが、あれも自分なりにラブソングを書いてみようと考えながら作った曲です。

きみのいる世界を「好き」って
ぼくは思っているよ
蓮の葉ゆらす風の中で

折坂悠太「ハチス」
2024年のアルバム『呪文』のラストに収録された楽曲。

人はなぜラブソングを求めるのか?うーん、そうですね……自分自身はいわゆるラブソングを聴いても、今はそれほど心を揺さぶられないんですね。恋をしていた10代や20代の頃は心に染み込んでいくような感覚があったと思うんですけど、今はそんな感じでは聴けない。

やっぱり自分の状況と重なり合う物語性があると、心を揺さぶられやすいですよね。歌を作る者としては、そういう心の動きを否定することはできないけど、物語という型にはめてしまうことの怖さみたいなものについても最近考えています。

ラブソングもそこに含まれると思うんですけど、俗っぽいものが持つ抗(あらが)いがたい魅力ってあると思うんですよ。私もその力を借りて音楽をやってる部分もあるけれど、物語に呑み込まれないようにしたい。愛って抽象的なものだからこそ、大きな力を生み出すと思うんですけど、だからこそ自分は大きな声で愛を歌うんじゃなくて、小さな視点からラブソングを歌っていきたいんです。

つまり、愛に関する表現を人に任せたくないんですよ。すでに存在している表現から借りてくるんじゃなくて、ちゃんと自分で考えたい。最近そういうことを考えています。

シンガーソングライター・折坂悠太
25年9月16日に行われた札幌・モエレ沼公園 ガラスのピラミッドでの公演にて。本番直前にインタビュー。

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