「ラブソングを作るなら、恋をしなきゃダメ」。小西康陽が愛を歌うときは

小西康陽の作る恋の歌は、悲しい歌が多い。ピチカート・ファイヴでデビューした当時から、達観したような恋愛の歌詞を書いてきたのはなぜか。近年、自分の声で歌うことに目覚めた小西さんが考える理想のラブソングとは。

photo: Kazufumi Shimoyashiki / text: Yusuke Monma

「ラブソングを作るなら、恋をしなきゃダメ」

音楽を好きになったのは、たしか小学5年生の頃なんですよね。一方で恋愛を初めて経験したのは中学2年生のとき。よく覚えているのは、恋愛をしたあと麻丘めぐみさんのデビュー曲「芽ばえ」を聴いたら、それまで何度か聴いていたはずなのに、「俺のことを歌った歌だ」と思ったんです。

あれって女の子の歌詞なんだけど。そこからですかね、ラブソングを意識したのは。やっぱり恋をしないとわからないんだなって。

曲を作るとき、それが恋愛の歌だと世界を作りやすいし、リスナーに届けやすい。自分の気持ちを吐露した歌とか、社会について歌った歌とか、そういうものより恋愛の歌の方が取っつきやすいんですよね。これは他愛のないポップスだと思ってもらえるというか。映画を観るときにスターが出ていると入り込みやすい気がしませんか?

難解なストーリーやくだらないストーリーであっても、最後まで引っ張っていってもらえる。そのスターにあたるのが、音楽では恋愛の歌なのかもしれません。あるいは歌のうまい人の歌とか、気持ちのいいコード進行とか。

恋はなぜか終わってしまう。それが残酷なものだなって

僕はあなたが好きっていう直接的な恋愛の歌のほかに、恋愛について考えるみたいな歌もありますよね。自分が作ったラブソングで考えると、わりとそっちの方が多いかもしれない。女の子について歌った歌も、自分にとってはラブソング。好きにならないような女の子のことは曲にしたくないもんな。

たしかに僕の恋愛の歌は悲しいものが多いんです。恋をすると、うきうきしたり、どきどきしたりするけど、たとえ成就しても、その恋はなぜか、いつの間にか終わってしまう。特になにかあったわけでもないのに。それが不思議なものだなって、もっと言うと、残酷なものだなって思ってきたんです。だから恋愛について歌にしたとき悲観的になる、っていうことなのかな。

曲を作りだしたのはピチカート・ファイヴを始めてからだけど、それ以降は恋愛について悲観的な気持ちしか持っていませんでした。ただ悲観的な内容の歌詞でも、マイナーキーの曲が長いあいだ好きではなかった──最近は変わってきましたけど──から、明るいメロディに乗せることが多かったんですよね。

音楽家・小西康陽
25年9月15日、渋谷〈OTO〉30周年イベントでの弾き語りライブ。ラストはロジャー・ニコルズの名曲「The Drifter」を自身がつけた日本語詞で。

例えばカヒミ・カリィさんのアルバムのために書いた「私の人生、人生の夏」は、多くのリスナーが彼女に抱いているようなイメージをすくい上げて作った曲です。ところが数年前にライブで歌ったら、これは自分が歌うための歌詞だったんだって気づいたんですよね。デカパンを穿いて上半身裸の、僕くらいの体形、僕くらいの年齢のおじいさんの曲だと(笑)。

有近真澄さんに書いた「女の都」も、自分で弾き語りしたデモテープが先日見つかって、聴いてみたら今の自分の感覚にぴったりだった。若い頃にこんな歌詞を書いていたんだって、びっくりしました。そういうことが増えたのは、自分が歌う立場になったからというより、年を取ったからなんだと思います。

結局、恋をしたり、女の子に振られたり、そういうことがない人の作ったラブソングなんて、薄っぺらのものだと思うんですよね。形だけというか、ただ文字を積んだだけというか。やっぱりラブソングを作るには恋をしなきゃダメ。

とはいえ、恋をすれば曲が作れるかというとそうでもないし、恋をして、いつも音楽のことを考えて、っていうのでないとダメなんですけどね。

真夜中の台所で
派手に大喧嘩をしたのは憶えてる?

ピチカート・ファイヴ「恋のテレビジョン・エイジ」

本当に悲しいことだけど
ふたりの愛は終わった

ピチカート・ファイヴ「悲しい歌」
1995年。ピチカート・ファイヴのアルバム『ロマンティーク96』収録。ソロ作品『失恋と得恋』では自ら歌っている。

ぼくはもう二度と 恋などしないさ
人生の終わりできみと出会った
女の都で

有近真澄「女の都」
1994年。ピチカート・ファイヴのコーラスにも参加した有近真澄のソロアルバム『女の都』から、そのタイトル曲。
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