京都の「余白のある店、余白のある人」。烏丸御池〈御菓子丸喫茶〉

素晴らしい空間やサービスだって、提供する側にも受ける側にも気持ちにゆとりがないと楽しめない。私たちにほかでは得難い体験を与えてくれる名店の主たちはなおのことだろう。25年3月から烏丸御池に新たな場所を得た〈御菓子丸喫茶〉主宰に聞いた、店のあり方と、“京都の余白”。

photo: Yoshiko Watanabe / text: Mako Yamato

五感を隅々まで刺激する、アートとしての和菓子に浸る

京都では茶の湯の文化に育まれ、茶を引き立てる名脇役として発展してきた和菓子。一方で〈御菓子丸〉を主宰する杉山早陽子さんの作る和菓子は、素材使いや技法に伝統を踏まえながらも、主役としての存在感を放つ。

〈御菓子丸〉の活動を開始したのは2014年。和菓子ユニット〈日菓〉として和菓子の創作に取り組むうち、新たな素材使いや食感を追求するようになったのは、職人としてごく自然な流れだったという。

京都〈御菓子丸喫茶〉「枕餅」
雪平(せっぺい)と呼ばれる卵白を加えた求肥(ぎゅうひ)にハーブの香りを添えた「枕餅」。

「大きな転機はドライフルーツや木の実を合わせる中国茶との出会いでした。茶の席で抹茶を引き立てる和菓子から、見た目と味わいの両方とで楽しめるものへ。菓子を主体に捉えることで、表現の幅が広がると感じたのです」。

洗練された姿や想像力を掻(か)き立てる銘と、口に広がる静かな衝撃とを併せ持つ菓子は、最後に味わって完成する静かなインスタレーションでもある。その作品を堪能できるのが週末に開催される喫茶。25年3月からは烏丸御池に新たな場所を得て、水音だけが響く空間で菓子と静かに向き合うひとときを整えた。

「作りたての軟らかい餅やスープ状に仕立てたものなど、オンラインで届ける菓子とは違う、ここだけの味と体験を得てもらえたら」。まるで一編の詩のように、情景を浮かび上がらせる〈御菓子丸喫茶〉で供される菓子。感性をそっと刺激され、残る余韻が心地よい。

杉山早陽子さんが語る、京都の余白

自然がそっと寄り添う町で、苔と唐紙とが伝える静けさ

賀茂川の橋を渡るときに急に空が開けたり、ふと顔を上げたら山が見えたり。京都では意識しなくても自然が目に飛び込んでくる。そんな瞬間に心の余白が生まれる気がします。少し車を走らせれば、穏やかな気の満ちる里山もすぐ。密度の高い苔が絨毯のように広がる〈古知谷 阿弥陀寺〉も、時折足を運びたくなる場所の一つです。

京都〈古知谷 阿弥陀寺〉外観
苔に包まれる〈古知谷 阿弥陀寺〉
のどかな里山の大原から、さらに北へ。ひっそりという言葉がこのうえなく似合う〈古知谷 阿弥陀寺〉は、慶長14(1609)年に弾誓(たんぜい)上人が創建した念仏道場。坂道の参道を進むと苔に覆われた階段と往時の僧坊が現れ、侘(わ)びの趣を漂わす。本堂奥には即身仏となった弾誓上人の石棺が安置され、不思議と惹きつける空気が漂う。

嘉戸浩さんが営む〈かみ添〉もまた外せない存在。嘉戸さんの作る唐紙からも、店の空間からも、受け手に委ねられたゆとりを感じるのです。

京都〈かみ添〉店内
移ろう光で美を知る〈かみ添〉
手で一枚ずつ、版木の文様を和紙に摺(す)り上げる唐紙。〈かみ添〉は店主・嘉戸浩さんの工房兼店舗。余計なものを削ぎ落とした空間に唐紙の便箋やカード、そして嘉戸さんがアートワークを手がけた作品が並ぶ。中でも〈かみ添〉を代表するのが白い唐紙。胡粉(ごふん)で白く染めた和紙の上に、雲母で白い文様を摺った唐紙は、見る角度や差し込む光によって表情を変える。繊細な手仕事に向き合い、美のありかを知る。
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