ブルータス時計ブランド学 Vol.81〈ルイ・エラール〉

海より深い、機械式腕時計の世界から、知っておきたい重要ブランドを1つずつ解説するこちらの連載。歴史や特徴を踏まえつつ、ブランドを象徴するような基本の「名作」と、この1年間に登場した注目の「新作」から1本ずつ、併せて紹介。毎回の講義で、時計がもっと分かる。ウォッチジャーナリスト・高木教雄が講師を担当。第81回は〈ルイ・エラール〉。

text: Norio Takagi / illustration: Shinji Abe

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外部とのコラボを重ねる独自路線でリブランディング

多くの時計製造会社がそうであるように、ブランド名は創業者の名である。〈ルイ・エラール〉は1929年、スイス時計産業の中心地の一つラ・ショー・ド・フォンで産声を上げた。当初は他ブランドの組み立てを担っていたが、1931年から自社製品をリリース。並行してOEM生産も継続し、順調な成長を続けて1970年代にはアトリエを同じジュラ地方の町ル・ノワールモンへと移転した。

しかしクォーツショックによる経営不振から立ち直ることができず、2003年にスイスの個人投資家アラン・スピネディによってブランドは買収され、再建を図ることとなった。新生〈ルイ・エラール〉は、高級時計の古典に範を取りながら、手ごろな価格帯のモデルを展開するブランドとして再スタートを切る。主力としたのは、時・分・秒の各針が独立したレギュレーターであった。

そして2019年、時計界最大のコングロマリットで手腕を振るってきたマニュエル・エムシュが社外アドバイザーとなり(翌年、CEOに就任)、さらなるリブランディングを敢行。時計界のダリと称され、自身もブランドを持つフランス人時計デザイナー、アラン・シルベスタインが手掛けたレギュレーターをリリースし、関係者の間で大きな話題となった。

以降もエムシュCEOがこれまでに築き上げてきた人脈をフル活用し、独立時計師や小規模な時計メゾン、デザイナー、アーティストらとのコラボモデルを次々とリリース。熱心な時計ファンは、次は誰と手を組むのかと新作を待ちわびるようになった。いずれも限定モデルであり、年間生産数をあえて4000本以下に抑えて高品質を維持し、かつレギュラーコレクションを絞って限定コラボモデルを主力とすることで、独自の地位を築き上げた。

【Signature:名作】2340

手が届く価格帯の上質なラグスポウォッチ


2025年に誕生した新コレクションからの一本であり、〈ルイ・エラール〉では数少ないレギュラーモデルである。フラットなケースとソリッドなブレスレットを統合した外観は、1970年代に確立されたラグスポ王道スタイルの継承。

ケースを多ピース構造とし、ブレスレットも含め鏡面状部はSS、サテン部はチタンを用い、素材の色と仕上げの違いでニュアンス豊かに仕立て上げた。ダイヤルは、ブレスレットのセンターリングがそのまま連続したような立体的な横ストライプに装った。上質な外装に汎用ムーブメントを搭載し、コスパは高い。

径40mm。自動巻き。SS+チタンケース。759,000円

【New:新作】グラヴェ・マン

総手彫り仕上げで、腕に着けられる工芸美術品

「メティエ・ダール」(芸術的手仕事)シリーズの最新作は、ウクライナ出身の時計師にして彫金師のマクシム・シャヴラクとコラボした。「彫金は、金属に言葉を与える手段」と語る彼は、複数の技法を駆使してケースとリューズ、バックルを18世紀のバロック様式から着想を得た花モチーフで総手彫りしてみせた。

手仕事であるがゆえ、限定数99本はどれも2つとして同じものがないユニークピースとなる。ダイヤルは、ブラックラッカー仕上げにアントラサイトとブラックの転写を施して色を抑制することで、手彫りの美しさをより引き立てた。総手彫りでこの価格は、極めて異例。

世界限定99本。径42mm。自動巻き。SSケース。1,397,000円

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