案内人・長場 雄
ゲスト・中村佑介
ゼロ年代を振り返ってくれるのは中村佑介さん。話は長場雄さんが尋ねてみたかったという“あること”から。
片やシンプルな線、片やコミック的な濃密な描き込み。スタイルの異なる東西の2人が語り合う
長場雄
中村さんのSNSで、僕の名前を目にしたことがあって。どんな内容なんだろうと気になってたんです。
中村佑介
おそらく僕の講演会や合評会に関連したポストのことですね。会にはコミック系のイラストを描いてる方の参加率が高いので、イラストのバリエーションを紹介するときに、長場さんを例として挙げさせてもらったのだと思います。
長場
例だなんて恐縮です。今回は、コミックのようなとおっしゃる中村さんのイラストは僕とはスタイルが違っているので、面白い話を伺えるのではないかと思っています。改めてゼロ年代の間の中村さんの仕事について教えていただけますか?
中村
大学を卒業したのがちょうど2000年で、助手として大学に2年残った後に、フリーランスになりました。
長場
すぐにASIAN KUNG‒FU GENERATIONのジャケットを手がけられますよね。瞬く間にスターイラストレーターになったと記憶しています。
中村
最初のミニアルバム『崩壊アンプリファー』が02年でした。このおかげもあって、確かに広く知ってもらえたと思います。ちょうどmixiも始まった頃で、自分のコミュニティを作って、欲しいグッズについてアンケートしたりしましたね。とはいえ、イラストレーターになったと実感したのはもっと後のことです。
象徴的なのは07年で、この年にようやく風呂付きの家に引っ越しました。それまでは風呂なしの僕が、ファンだと言ってくれる風呂ありの家に住んでいる人たちにサインを描いてたんですよ!(笑)
長場
忘れられない年ですね(笑)。とはいえ、フリーランスになって以来途切れることなくお仕事をされてきたんですよね。
中村
ゼロ年代は若者向けの仕事が多かったですね。コミック系のイラストはパッと見で子供向けに映りますから。
一方で、そういったテイストのイラストレーターが増えてきた時期とも言えて、振り返れば、スカイエマさんやワカマツカオリさんと並んで、若手のコミック系イラストレーターとして雑誌などで紹介してもらうことも少なくありませんでした。
若者を対象にした仕事が多かった僕にとって転機になったのは、小説『謎解きはディナーのあとで』の表紙を描いたことです。2010年のことですが、より広い世代に開かれた仕事ができたと感じましたね。
長場
ほかのイラストレーターの仕事はどのようにご覧になってましたか?
中村
ライトノベル【A】の表紙や挿絵はPCを使っている点でゼロ年代的だなと思います。平たく言うとアニメのような絵ですよね。セル塗り【B】しているから、ベタ塗りで、輪郭がはっきりしていて。いとうのいぢさんが手がけた『涼宮ハルヒ』シリーズがスタートしたのは03年です。
漫画『大人チョップ』や映画『東京ゾンビ』の原作者として知られる花くまゆうさくさんだったり、イラストに漫画、サニーデイ・サービスをはじめとする音楽のジャケットデザインなどを手がけてこられた小田島等さんの仕事も見てきました。
長場
ブラックユーモアあり、シュールありのアングラ漫画たちですよね。僕も読んできました。
中村
シュールな表現って今よりもっと多かったですよね。花くまさんや小田島さんには当てはまらないけれど、意地悪だったり露悪的だったりするテイストのものも。振り返るとやっぱり時代は動いていると感じますね。
長場
いろいろなことを思い出しますね。僕がゼロ年代を振り返る中で思い当たったことの一つに、アートシーンがありました。2000年には村上隆さんキュレーションの『SUPER FLAT展』【C】がありました。僕自身はストリートアートにも親近感を持っていて。イラストを「ビジュアル表現」として捉えていたというか。
中村
なるほど。確かに、村上隆さんや奈良美智さんをはじめ、日本のアートシーン自体が盛り上がっていましたよね。特に村上さんはアニメ的な表現もあって、イラストにも通ずるところがあると思います。
長場
ゼロ年代半ばには都内にストリートアートを扱うギャラリーが開廊したりと、よりアートとイラストの距離を近くに感じていたように思います。
中村さんは学生時代から大阪を拠点にされていますよね。関西と関東でシーンに違いを感じたりはしますか?
中村
それこそストリートアートの作品が関東のギャラリーで展示販売されていたのは驚きました。大阪では売れないだろうなあと思ったことをよく覚えています(笑)。大阪ではファッショナブルであることだったり、かっこいいという価値観が相対的に低いと感じていて。
とはいえ、大阪にもシーンがないわけではありません。ローカルラジオ局FM802のアーティスト発掘プロジェクト『digmeout』は、関西圏にとどまらず知られていると思います。局はもちろん、局とコラボする企業やイベントのプロモーションなどに若手アーティストを起用する、エージェンシーのような存在です。
長場
僕、以前大阪で個展をしたときに作品が一つも売れなかったんですよ。嫌われてるのかな(笑)。
中村
長場さんはファッショナブルだから照れるんですよ(笑)。