かっこいい大人が夢中になっているもの。〈PHIGVEL〉デザイナー・東野英樹

世界で活躍するかっこいい大人たちは、今何に夢中になり、どんなクリエイションをしているのか。日本を拠点に活動の幅を広げる〈PHIGVEL〉デザイナー・東野英樹さんの、これまでとこれからについて話を聞きました。

photo: Shinsaku Yasujima / text: Naoko Sasaki

原点である古着をベースに作る“普通の服”

オーセンティックなアイテムにミリタリー、ワーク、アウトドアの要素を取り入れて再解釈。日常着としての“ニュークラシック”を掲げるブランド〈PHIGVEL〉。デザイナーの東野英樹さんがファッションに目覚めたのは高校時代。

「地元の秋田で古着にどっぷりハマって。ロカビリー寄りのアメリカ50sの古着が好きでした。デニムのオーバーオール、ドリズラー、スエット、リーバイス®501。王道ですよね。その後、先輩たちから影響を受けて、スケートカルチャーにシフトしていきました」

上京し、音楽やスケートボードを通じた交流からファッションの道を志すきっかけが訪れる。裏原で人気を博したショップ〈HECTIC〉のメンバーとの出会いだ。

「19歳でした。真柄(尚武)さんがもともと古着のバイヤーで江川(芳文)さんがプロスケーター。僕が入った頃はまだ6人ぐらいで、いろんなカルチャーの集合体だった。それが面白かった。徐々に洋服の生産まで手がけるようになり、服作りも現場で学びました。でもブランドが成長していくに従って思い描いていたものと少しずつずれてきた。そこで自分の原点でもある“古着”をベースにした服作りを始めたんです」

2002年、25歳で〈PHIGVEL〉を立ち上げる。

「最初は完全ソロでした(笑)。ブランド名は、想像の産物=FIGMENTと小説=NOVELを合わせた造語。“想像を巡らせる古い時代の服”と“自分が見てきた物語”を融合させて、それが新しい時代のクラシックになればという思いから。夢中で服を作りながら、掘り下げて、勉強して、の繰り返しでした。デザインというよりは編集作業をしている感覚です。もともとあるものをどう違う形で出すか。機能服の要素を普段着にどう落とすかを考えます。僕が作るのは“普通の服”でありたいので」

好きなものを作るためにより深く学ぶ、ヘリテージを日常にアップデートするというもの作りはこうした試行錯誤から生まれた。

夢中で走り続けた年月を経て新しいタームが始まる

設立時の一番のテーマは「できるだけ長く続ける」ことだった。

「大袈裟に言うと、自分がいなくなった後でもブランドは残ってほしいと。確固としたベースがないと崩れてしまう。だから土台ができるまではブランドだけに集中して余計なことをしないという意識でやってきました。

ようやく〈PHIGVEL〉のハードディスクが形になったと思えたのが20年目ぐらい。続けられたのは自分たちの手の届く範囲でやってきたからかもしれません。ブランドもお店もローカル感がある方が好きなんです。スタッフは僕を入れて5人で、この十数年変わってない。手が足りないところは補い合ってシンクロして、すごくいいチームになったなと思っています」

まさに少数精鋭。期せずして好きだった初期の〈HECTIC〉と同じような人数なのも興味深い。24年目の今、何を見据えているのか。

「ブランドを俯瞰で見られるようになり、気持ちが少し楽になりました。続けてこられたのが一つの自信になったのかな。これからはもうちょっと柔軟にいろんなことに挑戦してみたい。ほかのブランドやアーティストとの協業等々、展示会サイクルやビジュアルの作り方なども。長く続けてこられたのも良し悪しで、なれ合ったり流したりするようにはなりたくない。常にスパイスや変化を探していきたいです」

そんな東野さんが考えるかっこいい大人とは?

「夢中なものや趣味がある人はいいなって思います。夢中って何物にも敵わない。だから素敵だし、その人のスタイルにつながる。実は僕も遅ればせながらフライフィッシングという趣味ができまして。自然の中に身を置くようになって魚はもちろん、鳥や虫、花、山菜、見るものや気になるものが変わってきました。

フライの道具や服などのプロダクトとしての面白さに惹かれたのも理由の一つ。アウトドアでの機能を実感できたことはブランドにも反映されていくと思います。人間年をとると自然が好きになると言いますが、まさに!ごくごく当たり前に年を重ねているんだなと感じています(笑)」

〈PHIGVEL〉デザイナー・東野英樹
東京・中目黒の目黒川に面した旗艦店〈PROD〉にて。自然光が差し込む店内はヴィンテージ家具を用いた什器、週替わりで生けられる花など東野さんの世界観が伝わる。ロングポイントカラーのチェックシャツは今季のお気に入り。
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