語る人:詩森ろば(劇作家、脚本家)
しもり・ろば/1963年宮城県生まれ。93年に劇団風琴工房を立ち上げ、2018年にserial numberと改名。また、映画『新聞記者』(19年)やドラマ『御上先生』(25年)など社会派作品の脚本でも定評がある。
上からではなく、フラットに。社会を偏見なく見つめる物語たち
小さい頃はドラマが好きで、20歳くらいまではよく観ていたんですが、一時テレビのない生活を送っていてドラマから離れた時期もありましたね。
私はもともと舞台の人間なんですが、映画やドラマの脚本も書くようになって、特に、2019年に『新聞記者』をやったあたりからでしょうか。これは観とかなきゃまずいなと思ってまた観始めました。ただNHKオンデマンドは、そもそもドキュメンタリーが多いので、脚本を書く時の資料としてもよく利用しています。
10代の頃は、父親がチャンネル権を持っていたので、ドラマに限らずNHKばかり観ていました。中でも「ドラマ人間模様」には影響を受けています。私の原点ですね。観直したいと思うものは、やっぱりあの頃のものが多い。オンデマンドには上がっていないんですが、若山富三郎さんが弁護士役の『事件』とか。家庭内暴力とか当時の社会問題にも切り込んでいて。
でも、ただ悪い人を描くのではなく、その人たちにも犯罪を起こした相応の理由があるということが、脚本や俳優さんたちの芝居から滲(にじ)み出ているんです。そういう温かい眼差しがあるところが好きでした。ドラマを通して、社会を学べるようなところがあって。それにしても、NHKのドラマは、当時から社会問題や世相を反映させるのが早いし、うまいですよね。
当事者が置いてきぼりにされない、フラットな目線の脚本
最近のものですと、『宙(そら)わたる教室』は、定時制高校、科学部、火星のクレーターを作る、とか、紹介文の最初の数行を読んですぐにこれは観たい!と思いました。文字が読むのが苦手なディスレクシアの男の子が、知識を得ることで人生を獲得していくという題材が、なんといっても素晴らしい。

2024年に「ドラマ10」として制作された。伊予原新の同名小説のドラマ化。定時制高校の先生役に窪田正孝。生徒役に、小林虎之介、伊東蒼ら。「できることなら自分が書いてみたかったなと思った作品ですね」©NHK/ランプ
それから『作りたい女と食べたい女』。女性同士の恋愛ものだというのは知っていたんですが、当事者の方からの評判もすごく良くて。はじめは、タイトルがレズビアンの人にもジェンダーロールを押し付けているようなイメージがあって少し警戒していたんです。
でも、実際に観たら、同性愛がきちんと描かれているのはもちろん、偏見なくただそこにあるものとして描かれていて。誰かにご飯を作って食べさせたいと思うのは、純粋に美しい感情で、本来は、男性でも女性でも、どういう属性の人でも尊重されるべきものですよね。
また、相手の女性が、ただ作ってもらえるから私は食べる人、というのではなくて、そこに対してフェアであるような関係性をきちんと作っていく感じが、ありそうでないドラマだと思ったんです。そもそも、ご飯を作るという役割自体が低いものだという思い込みが社会の中にあって。そうした問題にも、上からじゃなく、さりげなく切り込む感じも好きでした。

2022年に「夜ドラ」として制作された。ゆざきさかおみの同名漫画のドラマ化。主演に比嘉愛未と西野恵未。好評につき、2年後にシーズン2も作られた。「社会問題への切り込み方がさりげない感じなのも良かった」©NHK/MMJ
もう一本は最近のものではなく、最初にお話ししたドラマ人間模様から『夢千代日記』を選びました。山陰のひなびた温泉町の芸者の置き屋を舞台にしたドラマなんですけど、最初は、貧しいながらも、社会に居場所のない人たちが肩を寄せ合って生きている人情ドラマだと思って観ていたんです。
ところが、吉永小百合さん演じる夢千代が原爆症だということが後でわかる。私たちの世代は、原爆の話は比較的身近なものだと思ってはいたんですが、このドラマで初めて、そのことに地続きで触れた感じがして衝撃を受けた記憶があります。
一見、社会派ドラマには見えないんですけど、温泉町のミクロの世界がマクロに一気につながったような感じがして。これも早坂暁さんという脚本家の力なんですよね。

1981年に「ドラマ人間模様」として制作された。原爆症を抱える芸者、夢千代を吉永小百合が演じ、パート3まで作られた。脚本は早坂暁。「この人に生きていてほしいと思わせる存在感は吉永さんじゃないと出せないです」