先に何があるかわからない、純度100%の探検
未知の世界が地図上から失われつつある今、それを独り占めするように人類初の風景を見続ける男がいる。洞窟探検家の𠮷田勝次さんだ。
「登山だったら山頂が見えてるけど、洞窟はまず外から見えないし、入口がどこにあるかもわからない。まず入口の穴がここらへんにありそうだな〜というところから始まって、入ってみたら5mで行き止まりってことも日常茶飯事。逆に全く期待していなかった穴が奥深くまで続いて巨大洞窟だったということもある。その先にどんな世界が広がっているのか、地図でも目視でも確認できないし、想像すらできない。穴に潜り込むことでしか見られない絶対的な未知が洞窟には広がっているんです」

当たり前だが洞窟内は真っ暗だ。外部との通信は完全に遮断され、落盤や浸水の危険に常にさらされる。そんな環境でキャンプを設営し、1ヵ月以上滞在することもある。
「生物が少ない洞窟内では、人間が持ち込んだものによって生態系に深刻な影響が出る恐れがある。排泄物はタンクなどにためて地上に持ち帰るし、タンクがない場所で大便をした際にはブツを密閉袋に入れてヘルメットと頭の間に忍ばせて歩きます。ザックに入れると狭い通路を通る時に袋が圧迫されて漏れちゃうから。多少不便だけど、慣れれば平気」
気づけば30年以上続けていた。
「僕はね、洞窟は好きじゃないの。未知未踏の世界がたまらなく好きで、それを見たいだけ。今や洞窟くらいしか未知未踏の世界がないから、しょうがなくやってるんです(笑)」
湧き上がるエネルギーを持て余し、ケンカばかりする子供だった。高校を中退して建設現場で働いていた時、思い立って登山を始めた。過酷な冬山登山にも飽き足らず、スキューバダイビングなど多くの野外活動をしたが、どれもピンとこない。そんな時に出会ったのが洞窟探検だった。
「僕は暗いところが苦手で、洞窟なんて怖すぎる!と思っていたんだけど……。愛知県の名もない穴の中を這って、スポンと四畳半くらいの空間に出た時の感動が忘れられなかった。洞窟の持つ圧倒的なパワーに触れて、目の前がパーンと開けたような衝撃を受けました。僕が求めていたのは、これだったんだって」

あと30分で確実に死ぬ!運命を分けた水中での判断
以来ずっと、国内外の名もなき洞窟を探検してきた。そのほとんどが、人類が初めて足を踏み入れた空間だ。東京タワー以上の高さがある入口からロープ一本で地底へ降りていく。雨が降れば水で満たされるかもしれない洞窟内の川をパックラフトで進む。
完全に水で満たされた通路はエアタンクを背負い、潜水して突破する。洞窟探検には山、海、川、あらゆる野外活動にまつわる高度な知識とスキルが求められる。しかもそれを単独で行うこともあるというから、さらに危険度は増す。
「特に危ないのは潜水。狭い通路でタンクや体が引っかかって身動きが取れなくなる。その瞬間に心の中のストップウォッチが押されるわけです。残された空気は30分。その間に脱出できないと、死ぬだけです」
これまで何度も死の気配を感じてきた。その経験から学んだのは、「人間は選択できる」ということ。
「残された30分をパニクって暴れるか、冷静に脱出方法を考えて実行するか、僕は選択できる。だったら最短で生き残れる答えを出す方がいい。以前、水中でスタックした時は、後ろには戻れないけど前になら行けるとわかって、迷わず前進しました。でもその先に、水面から顔を出せる場所があるかどうかはわからない。でも、やるしかない。運よく水面と天井に2mくらいの空間があるところに出られて、態勢を整えて引き返しました。潜水を開始した場所に戻れた時、空気残量はゼロ。運よく死なずに済んだ、それだけの話」
「いつ死んでもおかしくない」と自分でも言う活動。それでもまた洞窟へと入っていくのは、恐怖より未知の世界への憧れが勝るから。次に狙うのは標高3600mの某国の高山。縦穴を2300mほど降りていくという、世界最深とおぼしき洞窟だ。

「この瞬間にもどこかで大雨が降って洞窟内の泥を流し、すごい空間に続く道ができているかもしれない。常に変化している地下空間は未知未踏の宝庫。そう思うと、やっぱりやめられないんですよ、洞窟は!」
𠮷田さんの冒険を感じる旅先へ

岐阜県山県市の柿野川流域にある洞窟。𠮷田さんが代表を務める〈地球探検社〉のケイビングツアーでのみ入れ、クリスタルブルーに輝く地底湖を目指して探検する。「初心者でも安全に楽しめるコースもあるので、洞窟に興味がある人はぜひ。ガイドなしの探検は危険なので絶対にやめてくださいね」(𠮷田)




