マンガで描かれている時代背景や設定、モチーフに関する知識があれば、物語の解像度がぐんと上がって見えるかもしれない、と感じたことはあるはず。もちろん、よくできたフィクションはそれらがなくても読者を存分に楽しませてくれるものだけど、知識を得たことでキャラクターのなにげない言動が異なる意味を持ちだしたり、一見無関係に思えたシーンがつながったりもする。あの名作、この名作に、別の角度から光を当ててくれるような、マンガを持って出かけたくなるミュージアム。
『へうげもの』をもっと面白く読むなら、京都〈古田織部美術館〉へ

織田信長、豊臣秀吉に仕えた古田織部は常軌を逸した数寄者。武人として出世を望む一方、茶の湯と物欲に振り回される生きざまを痛快に描く。役者揃いの戦国時代を見たことのない形で活写し、話題を呼んだ。全25巻/講談社。©山田芳裕/講談社
古田織部のセンスと審美眼、とくと拝見!
武将茶人・古田織部の存在をこのマンガで知った人は多いはず。古田織部美術館は、本作が連載中だった2014年、織部の400年忌に開館。創設者である宮下玄覇館長が長年にわたって収集してきた、織部自作の茶杓、書状、織部好みの茶道具、焼き物など、約500点の所蔵品を展示している。
年に2回の展示替えを行っており、多彩な角度&テーマを通して千利休や豊臣秀吉ら織部周辺の人々にゆかりの品も紹介。今見ても前衛的かつ摩訶不思議な織部の世界を楽しむことができる。
『ちはやふる』をもっと面白く読むなら、京都〈嵯峨嵐山文華館〉へ

取り柄のなかった少女が競技かるたと出会い、名人・クイーンを目指す熱血少女マンガ。頭脳スポーツといわれる競技かるたの奥深さ、躍動感あふれる試合展開を見事に表現し、知名度を一気に押し上げた。全50巻/講談社。©末次由紀/講談社
聖地で知る百人一首。作品にちなんだ大会も
鎌倉時代に歌人、藤原定家が嵯峨嵐山で優れた和歌を選び、色紙に記したことが始まりとされている百人一首。2018年開館の百人一首をテーマとしたミュージアムで、常設展では100体のフィギュア、もとい歌仙人形と、100首の和歌を英訳とともに展示している。
『ちはやふる』で興味を持った入門者にも親切な解説がうれしい。120畳もの広さを有する「畳ギャラリー」は、毎年行われる『ちはやふる小倉山杯』の会場でもあり、マンガ顔負けの熱戦が繰り広げられている。
『阿・吽』をもっと面白く読むなら、香川〈香川県立ミュージアム〉へ

真言宗を高野山に開いた空海と、天台宗を比叡山に開いた最澄。同時期に遣唐使船で中国に渡った2人の生涯を対比させ、呼応させながら描く。女性向けマンガに定評があった著者の新境地といえる意欲作。全14巻/小学館。©おかざき真里/小学館
貴重な空海の常設展で、その宇宙を感じる
香川で生まれた超有名人といえば、空海。香川県の歴史を紹介するほか、猪熊弦一郎やイサム・ノグチら同県ゆかりの作家の作品を展示。歴史博物館と美術館が一つになった総合的ミュージアムだ。
常設展『弘法大師空海の生涯と事績』は設(しつら)えも凝っていて、空海が創始した儀式を今も行う京都・東寺の灌頂院(かんじょういん)をイメージ。中世に描かれた絵巻に沿って、生涯を紹介している。仏画師が描き起こした曼荼羅(まんだら)や、書のレプリカも。空海に関する企画展は各地であるものの、いつでも鑑賞できる貴重な場だ。