選者:猿渡由紀(映画ジャーナリスト)、てらさわホーク(ライター)、森直人(映画評論家)
猫の名演が光る傑作映画
ヒューマンドラマ

『猫が教えてくれたこと』
独立しつつ助け合う、猫と人の特別な絆。/「トルコ・イスタンブルの野良猫を追ったドキュメンタリー。人から食べ物をもらい仔猫に持って帰る母猫や、空腹時だけレストランの店員にエサをおねだりする猫など、さまざまな状況が猫と同じ低い視点から捉えられています。独立心を保ちつつも猫は人に何かを与え、人は猫を愛する。やっぱり特別な関係です」。'16米/監督:ジェイダ・トルン。(選:猿渡由紀)
『アンネの日記』
戦争や差別は動物の一生にも影を落とす。/「ナチスの迫害を逃れ潜伏生活を送ったアンネ・フランクとその一家。映画は隠れ家での日々を描きます。息の詰まる生活の中で、心の慰めになっているのが飼い猫のムッシー。一家が収容所に送られた後のムッシーの末路は描かれませんが、戦争や差別で犠牲になるのは人だけでないことに気づかされます」。'59米/監督:ジョージ・スティーヴンス。(選:てらさわホーク)
『ハリーとトント』
亡き妻に代わる、最愛の相棒として。/「長年勤めた教職を退き、妻にも先立たれた老人ハリーは、飼っている老猫のトントと共に娘を訪ねにアメリカ横断の旅へ出ます。偏屈なハリーの独り言を黙って聴き、彼に穏やかな時間と気持ちをもたらすトントは、まさに亡き愛妻に代わるベストパートナー。両者の名前が対等に並ぶタイトルも素敵です」。'74米/監督:ポール・マザースキー。(選:森直人)
コメディ

『インサイド・ルーウィン・デイヴィス 名もなき男の歌』
寄り添う姿はかわいいけど、脱走に要注意。/「主人公は売れないミュージシャン。ある日居候先の玄関を開けると、その家の猫が飛び出してしまい、彼は追いかけて街へ出ます。中盤で運良く捕まえた猫と地下鉄に乗る場面はキュートですが、その子は全く別猫だという後の展開を考えると、やっぱり猫の逃亡は一大事。皆さんも気をつけて」。'13米/監督:ジョエル・コーエン、イーサン・コーエン。(選:猿渡由紀)
『キアヌ』
善人も悪人も魅了される仔猫のかわいさ。/「生まれたばかりで右も左もわからない仔猫のキアヌをマフィアの魔の手から守るため、何者でもない2人の男が奮起します。アクションコメディとして非常によくできた作品ですが、観賞後に残るのはキアヌの破壊的なかわいさのみ。善人も悪人も猫が好き!人生は猫を中心に回っていると再認識させてくれます」。'16米/監督:ピーター・アテンチオ。(選:てらさわホーク)
『猫が行方不明』
その“気ままさ”が主人公の日常を開く。/「主人公は仕事に追われる20代のクロエ。行方不明になった飼い猫のグリグリを捜すことで、いろんな人たちと触れ合い、新たな出会いが生まれます。終盤まで一向に姿を見せないグリグリですが、再登場シーンには脱力。この役回りは、自由気ままで無自覚に人を振り回す猫じゃなきゃ似合わないかも」。'96仏/監督:セドリック・クラピッシュ。(選:森直人)
SF

『エイリアン』
極限状態を生き延びる時も、猫と一緒に。/「宇宙貨物船ノストロモ号に7人の搭乗員と一緒に猫のジョーンズが乗っています。その船にエイリアンが入り込みパニックになるんですが、搭乗員のリプリーは隠れていたジョーンズを発見し、一緒に船から逃げようとします。命懸けの状況でも彼女はジョーンズを見捨てない。そう、猫は大事な友達なのです!」。'79米/監督:リドリー・スコット。(選:猿渡由紀)
『メン・イン・ブラック』
重要キャラに任命されても、どこ吹く風。/「地球人と、その社会に溶け込む宇宙人の攻防を描く本作。宇宙人が飼うのが猫のオリオンで、首輪の宝石の中に銀河系が入っています。そんな重要アイテムをぶら下げながら、常に泰然としていてどこ吹く風というのが猫らしい。常識の通じなさは、宇宙人だけでなく猫も。彼らも別の星からやってきたのかも」。'97米/監督:バリー・ソネンフェルド。(選:てらさわホーク)
『クワイエット・プレイス:DAY 1』
街でのサバイバル力は、人間にも勝る。/「“音を立てたら即死”の設定で知られるSFホラーの前日譚。謎の巨大生命体の襲撃を受けるニューヨークで、末期癌のサミラが生き残りを試みます。全編で活躍するのが聡明でサバイバル能力抜群の愛猫フロド。実質リーダーとしてサミラらを率いる一方、混乱の中でネズミを追いかけるマイペースさも印象的」。'24米/監督:マイケル・サルノスキ。(選:森直人)
ハードボイルド/ミステリー

『ARGYLLE/アーガイル』
作品も現場も温かくする、監督の愛猫。/「スパイ小説家のエリーが、現実でもスパイに命を狙われるという物語。彼女が飼うのが猫のアルフィーで、アーガイル柄のキャリーに入って連れ立つさまはオシャレだし、終盤のアクションは痛快です。実はこのアルフィー、マシュー監督の飼い猫チップ。毎日一緒に通勤していて、現場でも愛されていたとか」。'24英=米/監督:マシュー・ヴォーン。(選:猿渡由紀)
『リーサル・ウェポン3』
腕利き刑事から飛び出す猫ギャグに注目。/「刑事コンビが爆弾処理を試みる冒頭。爆弾を仕掛けられた車の屋根に猫が現れます。ここでコンビの一人、メル・ギブソンが“catastrophe=災難”と“cat”をかけた軽口を叩く。“こりゃ災ニャンだなあ”とでも訳せましょうか。緊迫の場面でも、猫を見れば上機嫌に親父ギャグでも言いたくなるもんです」。'92米/監督:リチャード・ドナー。(選:てらさわホーク)
『ロング・グッドバイ』
映画の冒頭を飾る、わがままな名演。/「私立探偵のフィリップ・マーロウがある事件に巻き込まれていく本作。最高なのが冒頭です。深夜、マーロウは空腹の猫に無理やり起こされます。あり合わせのエサをあげるも納得せず、彼は仕方なくキャットフードを買いに街へ。飼い猫に振り回される姿一発で“冴えない”マーロウ像を打ち出しているのが見事です」。'73米/監督:ロバート・アルトマン。(選:森直人)
ラブストーリー

『ティファニーで朝食を』
猫映画を代表する一本だけど、教訓もあり。/「奔放な女性ホリーと、同じアパートに越してきた青年の恋物語です。ホリーが飼っているのが、知らない人の肩にも飛び乗るほど人懐っこい猫。心の中は不安定な彼女に安らぎを与える存在ですが、彼女が感情を制御できなくなった時にとばっちりも受けてしまう。ペットを飼う人は反面教師にしてほしいです」。'61米/監督:ブレイク・エドワーズ。(選:猿渡由紀)
『媚薬』
魔女の使いとして、クールに暗躍。/「ニューヨークに住む魔女のギリアンは、隣人のシェパードに恋をし、飼っているシャム猫のパイワケットに命じて彼に魔法をかけます。日頃から猫に超常的な能力の片鱗を感じることがあるので、魔女の使いと言われても納得。クールに活躍する一方、しばしば誰かの肩に乗って甘えている姿に目尻が下がります」。'58米/監督:リチャード・クワイン。(選:てらさわホーク)
『ベティ・ブルー 愛と激情の日々』
ヒロインと重なる、詩的な存在として。/「小説家志望の青年ゾルグと、彼の元に転がり込んできたベティ。愛し合う2人は白猫をかわいがります。不安定な日々の中でベティは痛ましい死を迎えるのですが、待ち受けるのはベティの魂が白猫に宿ったようにも見える美しく切ないラスト。本作で詩的な存在としての猫のイメージが芽生えました」。'86仏/監督:ジャン=ジャック・ベネックス。(選:森直人)
アニメ

『シュレック2』
チャーミングな“猫あるある”がたっぷり。/「前作でフィオナ姫と恋に落ちた怪物シュレック。両者はめでたく結婚しますが、シュレックを気に入らない彼女の両親から刺客として送り込まれるのが長靴を穿いた猫です。殺し屋を気取りますが、直後に咳を連発し、毛玉を吐き出すなどユーモアたっぷり。“猫あるある”な振る舞いで笑わせてくれます」。'04米/監督:アンドリュー・アダムソンほか。(選:猿渡由紀)
『じゃりン子チエ 劇場版』
猫には猫の、覚悟と仁義とがある。/「小学生チエと周囲の人情味溢れる日常を描く本作。チエの前にある日突然現れるのが猫の小鉄です。その正体は各地で猫たちとの戦いに打ち勝ってきた実力者。そのハードボイルドな生活模様からは、猫からすれば人間の存在は大したものでなく、生きるも死ぬも自分たち次第だとの厳しいメッセージを受け取らざるを得ません」。'81日/監督:高畑勲。(選:てらさわホーク)
『フリッツ・ザ・キャット』
“自由で気まぐれ”な性格を強烈キャラに。/「超エロくていい加減、ヒッピーや革命家を冷やかし、大学をドロップアウトするタフなトラ猫の青年フリッツの破天荒な物語。動物の擬人化は特にアニメや漫画で用いられますが、どんなエグいキャラでも“かわいく”見せる効果があるなと。そんな中でも、“自由で気まぐれ”なキャラクターは、やはり猫がぴったり」。'71米/監督:ラルフ・バクシ。(選:森直人)