STUTS
僕はトラックメイクを始めたときからMitsuさんのファーストアルバム『New Awakening』やそのビートメイクのテクニックに影響を受けてきたので、今日こうやってお話しできて光栄です。今回のテーマは「ジャズとヒップホップビート」。Mitsuさんが最初にジャズに触れたきっかけはなんですか?
DJ Mitsu the Beats
もともとは父親がジャズのレコードを集めてて、ウェス・モンゴメリーとかが家でよく流れてたんですよ。ただ、自分から調べて聴きだしたのはヒップホップに出会ってからかな。
STUTS
僕も同じです。最初は「サンプリングできるかどうか」という点でジャズのレコードを買ってたんですけど、そこからフュージョンとかファンクが好きになって。デ・ラ・ソウルのサンプリング楽曲集みたいなアルバムがあったりして、それを聴きながらビートメイクについて勉強してました。今日はMitsuさんにジャズとヒップホップを語るうえで重要な楽曲を紹介していただきます。
Mitsu
僕がビートメイクを始めた頃に出会った中の一つはスリック・リックの「Behind Bars」。このネタ元はなんだろうと思って掘ってたらレス・マッキャンの「Sometimes I Cry」の方に引き込まれていって。
STUTS
「Sometimes I Cry」は改めて聴くとMitsuさんのビートとローズピアノの絡み合い方の印象にも近い感じがします。
Mitsu
こういうフュージョン系のジャズって非難されてた時代もあるんだけど、僕らにしたら同列というか。いいジャズがいっぱいあったんだってことを伝えていけるのがヒップホップの文化だと思う。
STUTS
僕も最初にジャズを掘り進めていくときにドナルド・バードとかのフュージョンが一番、耳馴染みが良かったんですよね。ビート感だったり、ベースのグルーヴだったりが、ヒップホップの延長線上で聴ける感覚があります。
Mitsu
そうだよね。次に紹介したいのはユセフ・ラティーフの「Love Theme from Spartacus」。
STUTS
この曲といえば、Nujabesさんが「The Final View」でサンプリングしていたことで知ってました。
Mitsu
まさに、ジャズとヒップホップの話をするならNujabesは避けて通れないよね。
STUTS
MitsuさんやNujabesさんをはじめとするジャズヒップホップの流れがあった90年代後半~2000年代の前半くらいって、どこからそういうものが出始めたんでしょう。
Mitsu
自分がジャズをサンプリングしようと思ったのは海外の人に憧れたとかシーンの流れに合わせたわけでは全くなくて。好きなフレーズがジャズにあって、それをサンプリングしてビートメイクしてたらああいう形になったんだよね。同時期に同じ思いを持った人たちが自然発生的に生まれたのかな。
STUTS
ジャズ特有なものとして、偶然性みたいなものがありますよね。同じ曲でも弾くたびに違うフレーズが現れたりして、そこがトラックメーカーを魅了するんだと思います。
90年代に隆盛したジャズヒップホップ
Mitsu
ここからはヒップホップが続くんですけど、まずはJ-88で「The Look of Love」。この曲のイントロがライブでコンピやってるところから始まって、今でもDJプレーすると絶対盛り上がる。
STUTS
僕もスラム・ヴィレッジはものすごく影響を受けてるんですけど、こういうところから90年代後半のアンダーグラウンドなジャズヒップホップの流れが作られていったのかなとも思います。
Mitsu
たしかに。すごい独立した感じで考えてたけど、もしかしたら一番影響が大きかったりするかもね。
STUTS
ギターのループが印象的ですけど、これもサンプリング元はジャズですよね。
Mitsu
バーニー・ケッセルの「The Look of Love」が結構そのまま使われてますね。あと、ア・トライブ・コールド・クエストの2枚目のアルバムの代表曲「Jazz(We've Got)」も紹介したい。
STUTS
個人的にもそのアルバムからヒップホップにのめり込んだ人間なので、やっぱりこの曲なんだなと。Mitsuさんも彼らのジャズ使いには影響を受けてましたか?
Mitsu
僕もトライブを最初に知ったのが2枚目のこの曲で、かなり影響を受けたと思います。
STUTS
“ジャジーヒップホップ”っていう名前でくくったりするのはあまり好きじゃないんですけど、そういう音楽が生まれてくる一番最初だったのかなと。同じ時代のヒップホップで、ほかにめちゃくちゃジャズだったものってありますか。
Mitsu
オリジナル・フレイヴァーの「Can I Get Open」かな。これは自分の中ではジャズヒップホップで最初に聴いた曲だったけど、リリースの時系列的にはトライブが金字塔かな。
STUTS
ここまでガッツリ全体でジャズを打ち出したヒップホップアルバムは、トライブが最初だったかもしれませんね。ヒップホップとジャズの結びつきは多様化してますが、その最初期の90年代の話をメインにお聞きできて楽しかったです!

ジャズとヒップホップの関係を辿る10曲

ピアニストのレス・マッキャンが1973年に発表した『Layers』に収録された一曲。「カチッとしたドラムの音やローズピアノの入り方含め、この曲自体がヒップホップに近い。赤い丸のジャケットも印象的です」(Mitsu)

物語性のあるラップで魅する稀代のストーリーテラー、スリック・リックによる1994年発売の3rdアルバムの表題曲。レス・マッキャン「Sometimes I Cry」のエレクトリックピアノをサンプリング。

ジャズミュージシャンのユセフ・ラティーフによる1962年発表のアルバム『Eastern Sounds』に収録された楽曲で、原曲は映画『スパルタカス』の音楽。哀愁漂うオーボエが印象的で、サンプリングとしてよく用いられる。

日本を代表するトラックメーカー、Nujabesによる2003年リリースの名盤『Metaphorical Music』に収録。「Nujabesはジャズヒップホップの第一人者。使ってる音楽もめちゃくちゃレアものばかりです」(Mitsu)

ジャズギタリストのバーニー・ケッセルが1971年にリリースした名盤『Swinging Easy!』に収録。J-88以外にも、88-Keysプロデュースのミュージック・ソウルチャイルド「Her」でも元ネタとしてサンプリングされている。

J・ディラ、T3、バーティンで結成されたスラム・ヴィレッジがJ-88名義で1999年にリリースした名曲。「J・ディラは一番リスペクトしてるプロデューサーで、元ネタからジャズやソフトロックを学んだ」(Mitsu)

「Jazz(We've Got)」の元ネタとなったオルガン奏者のジミー・マクグリフによる楽曲。1973年リリースの、シカゴの刑務所で行ったライブ録音アルバム『Concert Friday The 13th Cook County Jail』に収録されている。

90年代のヒップホップのレジェンドによる、『The Low End Theory』収録の代表曲。「曲名の通りまさにジャズという感じの曲で、時代とともにメインストリームが変わってもずっと受け継がれています」(Mitsu)

「Can I Get Open」のサンプル元の曲。ラムゼイ・ルイス・トリオに在籍していたドラムのアイザック・レッド・ホルトとベースのエルディ・ヤングがタッグを組んだインストバンドによるレコード『Born Again』収録。

スキーとスウェイヴ・ラヴァーを中心に1990年代初頭に結成されたジャズヒップホップ・ユニット、オリジナル・フレイヴァーの2ndアルバム『Beyond Flavor』に収録。「Can I Get Open」にはジェイ・Zがゲスト参加。