アートの中の、詩的な一行。布施琳太郎、百瀬文etc.

アートの表現方法が多様化する今、詩や詩的な言葉を効果的に用いた作家たちに光が当たっている。ここでは4組に自身の作品の中から希望を感じる一行を抜き出してもらいながら、“詩的な言葉”の持つ可能性について掘り下げた。

text: Shiho Nakamura / edit: Emi Fukushima

作品を補足・説明するものとしてではなく、言葉自体に光が当たり、作品を体現するアートが花開いている。なぜ作家たちは、自らの表現を詩的な言葉に、そしてそれらを凝縮した「一行」に託すのだろうか。

例えば、映像やインターネットなど様々なメディアを横断して制作する布施琳太郎さん。作品に通底する現代社会の“孤独”を慈しむ詩的なアプローチは、2023年に刊行した詩集にも表れている。彼は詩の魅力を「自由さ」だと言い、「言葉を通じて、世界を組み替えたり戯れたりすることで、世界は単数ではなく複数だと気づかされる。だから、僕の活動はいつも詩を書くことから始まる」と語った。

水槽のなかの魚たちの目は
生きていても、死んでいても
同じように
きらきらと
ひかっているんだろうなって

詩集『涙のカタログ』(PARCO出版)内「新しい死体」より
アーティスト・布施琳太郎のインスタレーション「新しい死体」
「個展『新しい死体』で展示した映像作品の詩を改編して詩集に収めました。もう会えない人と、話せない人と、それでもコミュニケーションがしたいから、そのための言葉を探して。そして目の前にいない人と、一瞬でも触れ合えたように感じたから、僕はそれを希望だと思います。“希望”とは“こうでなくともよい”という否定によって、冷たい潮風に向かって走りだすような爽やかな気持ちを、一語に縮めて表現したものだと思うから」
《新しい死体》2022/PARCO MUSEUM TOKYO photo by 竹久直樹

また2023年、詩集『そだつのをやめる』で中原中也賞を受賞した青柳菜摘さんは、“見えない存在”を映像や言葉を用いたインスタレーションに落とし込む。以前は作品を制作する際の言語表現に苦手意識もあったという彼女だが、詩を核とする作品を作り始めたことで、言葉が生む“誤解”がイメージの攪拌(かくはん)を起こす面白さに出会ったのだそう。

木や、草や、花の種たちは
戦火にまきこまれるまえに
潮のにおいをたどって海をめざします。

映像インスタレーション作品《方船》(2022)より
アーティスト・青柳菜摘の映像インスタレーション作品《方船》
「7作品が青森県十和田市内を“回遊”した個展『亡船記』(2022年)の一作《方船》は、ノアの方舟に着想して“種が亡命する”というテーマで制作。様々な理由で亡命せざるを得ない人々や、物資の移動によって生物がほかの土地で育つことなど、とりわけ現代では外来するものについて考える場面が増えています。この一行では、自らの意思では動けない種子を譬(たと)えに私たちが“ここにいる”ことへの危機感を考えることができると思う」
《方船》2022 / 十和田市現代美術館での個展『亡船記』より(会場:田島生花店) photo by 小山田邦哉

一方、見過ごしがちな事象に目を向け、洞察に富んだ映像作品を手がける百瀬文さんは、作品の中で紡ぐ詩的な言葉を「“語られなかった者たち”から放たれ、世界の裂け目として現れるもの」と表した。

My body is my story.

映像作品《Flos Pavonis》(2021)に登場する台詞(せりふ)より
美術家・百瀬文の映像作品《Flos Pavonis》
「2021年1月、ポーランドでほぼすべての人工妊娠中絶を禁止する法律が施行されたことを現地の友人に聞き、強い怒りを覚えたことが動機となった作品です。日本とポーランドを舞台に2人の女性の往復書簡のような形で物語は進行し、自らの身体が国家の管理下に置かれる感覚や、現実と矛盾する自身の欲望など様々な言葉を紡いでいきます。制作過程で実際にポーランド人女性に話を聞いた時、一番印象に残ったのがこのフレーズでした」
《Flos Pavonis》2021 / single channel video / 30 min / 東京都現代美術館蔵 ©Aya Momose

そして、詩人を中心とする4人で結成されたTOLTAは、現代詩や戯曲を軸に、紙片の中にとどまらず、時間や空間へと表現を広げて展開。その多彩な活動は「言葉が目的のための手段としてしか捉えられない世界は窮屈だ」との考えに立脚している。

軽やかでいて慎重、時に直截的で間接的。縦横無尽に様々に言葉を行き来して繰り出される彼らの既存の型にとらわれない表現は、私たちに詩とアートの深遠さを教えてくれる。

ずっとたのしくて、
おわるとさみしくなっちゃうようなあそびをしたいよ。

インスタレーション作品《ロボとヒコーキ》(2019)より
ヴァーバル・アート・ユニット・TOLTAのインスタレーション作品《ロボとヒコーキ》
「《ロボとヒコーキ》は、対話型ロボット『トルタロボ トーク』と折り紙の飛行機で構成した作品。ロボットには話したいこと(思想)があって、この一行はその主張です。通常、ロボットは奉仕のために作られますが、『トルタロボ トーク』は永遠に遊びたいだけで、この言葉には不可能な願いが込められています。人間も本音ではそう思っていても正直になれないものだから、ロボットですらそう主張するということに希望があるわけです」
《ロボとヒコーキ》2019 / 東京都現代美術館『あそびのじかん』展 photo by 白井晴幸
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