少年の思いが今、アニメとなって放たれる
当時、幼かった少年が得体の知れない切なさを感じたという「地上最大のロボット」。最強を証明するために世界的ロボット7体を破壊しようとするプルートゥに、アトムは戦うことの虚しさを説く。1964年に発表されたこの『鉄腕アトム』のエピソードを、壮大な“浦沢ワールド”としてリメイクした『PLUTO』。
2003年、漫画界を上げてアトム生誕を祝う企画を持ちかけられた時、浦沢は「お祝いのイラストだけでなく、本気で『地上最大の〜』のリメイクに挑むくらい気骨のある漫画家はいないものか?」と発言するも、「もちろん、あれほど偉大な作品に挑むなんてとんでもない」と思っていたという。
しかしその後、プロデューサーの長崎尚志さんと話すうちに『PLUTO』の骨組みが出来上がり、これを他人には渡したくない、自分で描こうと思うに至った。
「そこからは、もう地獄ですよ(笑)。作品の大ファンだった浦沢少年が、ヘタなものを描いたらただじゃおかないと言っている妄想から蕁麻疹(じんましん)、にもなったりして。でもいざ描き始めたら、自分の漫画になりだしたんです」
それから20年。渾身の作品がアニメーションとして完成した。原作を忠実に再現しながらも近未来像をよりダイナミックに描くなど、アップデートされた『PLUTO』は必見だ。
「僕が味わったプレッシャーをまたアニメスタッフの皆さんが体験するのか。なんと大変な仕事だと思っていましたが、完成したものはアニメの金字塔となる見事なもので、本当に感動しました。手塚先生は難しいテーマでも、エンターテインメントとして伝えるんだと苦心されてきた方だと思います。今回のアニメ『PLUTO』はそんな手塚先生からバトンを繋ぐ作品になる」
世界から争いがなくなるどころか、より身近になる今、作品の有義性はより高まっている。
「オリジナルから60年経ってますます作品のメッセージが有効な時代になってしまっている。この作品が世界中に届くことは意味があることですし、アニメから原作漫画に遡って読んでみようという行動に繋がれば、歴史をパースペクティブに見られるきっかけにもなると思います」