植物体の中にアリなどを棲(す)まわせて共生関係を作って生長する不思議な植物「アリ植物」をメインとした、着生植物全般を扱う〈伊藤蟻植物農園〉。アリ植物は、いわゆる「難物」と呼ばれる、栽培が難しいものも多く上級者向けというイメージだったが、LED照明の屋内栽培によって環境が整えやすくなった植物の一つだ。ユニークでバラエティに富んだこれらの植物たちを存分に楽しむべく、通常は非公開の温室内を今回特別に、代表の伊藤彰洋さんに案内してもらった。

「アリ植物の中でも“アリダマ”と呼ばれる、塊茎(かいけい)を太らせてその中にアリなどを棲まわせる植物は、中には栽培が難しいものも多く、あまり普及してこなかった歴史があって。冷涼な気温に、それなりの明るさ、しっかりめの風、適度な湿度、と用意するのがなかなか難しい環境が必要なので。それでも自分はどうしても育てたかったので、徹底的にその環境を再現することにこだわって作ったのが、この温室なんです」
そんな温室に入ると、最高室温25℃程度までの設定がされており、ひんやりとした空気に。
「あまり感じないかもしれないですけど、湿度も90%近くあるんですよ。でも、植物はそんなに濡れてない。これはドライミストという、高圧をかけた粒子の細かいミストを出していて。このくらいの感じがちょうどいいんです。特にトゲをつけるアリダマには、粒子が粗くて表面が濡れてしまうようなミストを使うと、トゲが気根になったり、または出なかったりと、本来の姿にならないものもいて。あとは風ですね。空気が動いているくらいの通風では弱くて、葉がそよぐくらいの強さが欲しい」
ここにはアリダマだけでも約200種が揃っており、世界でもここまでの種数を維持しているところはおそらくないだろう。トゲをびっしりつけるもの、毛むくじゃらになるもの、たった1本の根で下垂するもの……など珍奇的な要素のすべてを持っていると言っても過言ではない、実に魅力的な植物群だ。
「とてつもなく面白い植物なのに、栽培方法が確立されていなかったのと、そもそもほぼ流通していなかった、ということであまり注目されてこなかったジャンルなんです。屋内栽培が進歩したことでハードルも下がりましたし、自分がこれまで散々失敗を繰り返しながらつかんできた方法をできるだけ発信するようにしています。流通に関してもそれなりの規模での生産を進めているので、様々な種を入手しやすくなってきているはず。うちでは実生株(みしょうかぶ)や分け株のみを販売しているので、自分の手でカッコいい姿に育て上げる園芸の楽しみを存分に堪能してほしいですね」
LED栽培のスタートを機にぜひ挑戦してみたい!そう強く思わせてくれる植物の楽園だった。