
タコか2000円か 文・ピエール瀧

7月に人生二度目のタコ釣りに行ってきました。
釣り仲間のご近所さんから自分のLINEに一通のメッセージが送られてきたのがきっかけです。
それには、「瀧さん、今年は東京湾のタコが当たり年です。ヤバいので行きましょう」という一文と、巨大なクーラーボックスにパンパンに詰まったタコの写真が添えられていました。その数、実に60杯。なかなかのグロいビジュアル、だがヤバいことは確実です。
タコ釣りというと、一般の人の脳内には「?」の文字が浮かび上がるようです。「釣り?!いやいや漁でしょ?」とか、「壺は使わないの?」といった、漠然としたタコの生態イメージが邪魔をしてしまい、竿を使って釣り上げるイメージに辿りつかないようです。
使うのはタコエギという擬似餌、つまりルアーですね。カニや魚の切り身を使ったエサ釣り(テンヤ)もありますが、自分はタコエギの釣りしかやったことがありません。
まず強めの竿とベイトリールを用意したら、ラインの先端にオモリを付けます。タコは海底の岩場や、隠れるところがある場所にいますから、仕掛けを沈める必要があるからです。
オモリを付けたら、オモリにさらにタコエギを二つほど取り付けます。タコエギはエビのような形をしていて、尻尾の部分に鋭いかぎ針がついています。このかぎ針をタコにフックさせて釣り上げるという仕組みです。
タコがいそうな場所に船でやってきたら、まずタコエギを沈めます。エギが底についたら糸のたるみを取り、竿先をチョイチョイと動かしてエギを踊らせてタコを誘います。「タコの皆さん、あんたの目の前にエビがやってきましたよ。ほ〜ら動いてるでしょ。チャンスだと思わない?」って感じ。
タコは「ですよね〜。ノコノコとバカなエビだこと。では!」なんつってエビ(正体はタコエギ)に抱きつきます。タコがエギを抱くと竿先がちょっと重くなり、こちらとしては「おほほ。騙されましたな」となるわけです。そして大事なのはここから。
竿先が重くなったら難しいことは考えず、「オラァ〜ッ!」と一気に竿をあおってアワセます。タコがついてる場合はアワセと同時にかぎ針がフックし、タコが一気に海底から引き剝がされて、こちらの獲物(つまり晩御飯)になります。
この釣りのややこしいところは、竿先が重くなっている状態の時は、海底の岩等に根掛かりの場合もあるということです。これが自分のような初心者には見分けにくい。もし根掛かりだった場合は「オラァ〜ッ!」と同時にブチッ!という嫌な手応えがしてラインが切れ、タコエギ(約2000円相当)を失います。怖いでしょ?
しかしこのアワセはとても大事で、躊躇(ちゅうちょ)なくやることで釣果が変わります。つまり、毎回ギャンブル気分というか、2000円を捨てる覚悟で遠慮なくやらなくてはなりません。アワセる度に期待と落胆が背中合わせという、感情をもて遊ばれる釣りなのです。
釣り上がったタコは船内にあげても気が抜けません。器用に、しかも意外に素早く床を這って逃走しようとするので「待て〜」なんつって笑顔でタコを追いかけたりすることもあります。吸盤を使って船壁にしがみついたタコのパワーはこちらの想像の上をゆき、タコを引っ張って剝がすのに苦労しているおっさんの様子はほぼギャグ漫画です。あとはベタに墨を吐かれて真っ黒になったり(笑)。
こんな平和な光景が、羽田空港の滑走路脇や、東京港の無人の堤防そばで繰り広げられている。それがタコ釣りです。船も沖の方まで出て行かず楽なので、初心者の皆さんにオススメできる釣りだと思います。