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柏田テツヲの写真の話。「旅の先の“予想外”を閉じ込める」
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写真だけが、想像し得ない画(え)を夢中で追いかけさせる
「想像を超える旅へと自分を導き、思いがけない風景と出会わせてくれるから写真は面白い」と語る、写真家の柏田テツヲ。旅で得た気づきやインスピレーションを、また次の旅へとつなぎ、誰にも見ることが叶わない風景として写真に収めてきた。その旅の始まりは2015年。活動初期に憧れた作家たちのいた、アメリカにあった。
「カリフォルニアやアリゾナを旅しながらモーテルを撮ったのが、作品と言える最初のシリーズ。それが自分としては表面的で不完全に感じてしまって、もっとこの国を知りたい、深掘りしたいと、今度は3ヵ月かけてアメリカの田舎を旅した。危険な目に遭いながらも人種差別やオカルトといった裏の面を含めて、いろいろなアメリカと出会いましたね。けれど結局、自分はよそ者で。思うように知ることはできなかったんです」
町に覆い被さるような不気味な雲を捉えた「STRANGER」の一枚は、旅での心象を物語るかのようだ。そしてこの経験で“知ることができなかった”ことも、想像を超えた旅なのだと教えてくれる。
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アメリカを車で縦断し、旅で出会った風景や人々を収めたシリーズ。南部の不思議な白人の町、Google Mapsにもない巨大施設、コロラドのUFO伝説など、旅での未知なる体験に、アメリカをさらに深く知りたいと掻(か)き立てられた。
「その旅をきっかけに来年からは、住むことでもっと知って撮りたいと、LAにも拠点を作ることにしました。また、旅で感じた大量消費や環境破壊への疑問が、その後のシリーズにもつながっています」
2019年、留学体験のあるオーストラリアでの森林火災が題材の「Into the Gray」は、そうした社会への問題提起を含んでいる。
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2019年、史上最悪とされるオーストラリアの山火事にカメラを向けたシリーズ。自然を愛する写真家にとって、人類が向き合うべき問題を伝える責務に動かされた半面で、撮影前は予想し得なかった美しさとも対峙することになった。
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「メルボルン南部へ海岸浸食を撮りに行こうとしたら、シドニーの空にまで森林火災の煙が届いていて。先にこれを撮らなければと思った。燃える森の暑さや煙の臭いに問題をより身近に感じる一方で、矛盾と知りながらも、灰色に覆われた世界の美しさに動かされる自分がいたり、半年後に同じ場所を訪れて、緑が再生するスピードや自然の力に驚かされたり。撮る前には考えも及ばなかったことに、写真は巡り合わせてくれるんです」
その旅はさらに、2022年に屋久島のレジデンスで滞在制作した「Nearly equal」につながっていく。「Into the Gray」で“自然を撮る”ことの先にあったのは、“自然とともに撮る”ことだ。作品で自然とその一部である人間との関係を問いかけようとしたその一枚一枚には、フィルムの傷や現像のムラ、レンズを濡らす雨粒など、人のコントロールによらない様々な現象の痕跡が残されている。
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2022年、鹿児島県屋久島町で滞在制作した作品では、人間と自然とを同等とし、その関係性を表そうとした。雨の雫、石や枝葉のダメージを生かした作品など、周囲の自然と丁寧に向き合い、表現を試行錯誤した時間が写真に収められている。制作物は屋久島の町でも野外展示された。YPF PHOTO AWARDS 2022最優秀賞受賞作。
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「自分の力を超えた科学現象を起こしたかった。そのため石や小枝や葉を入れた川の水を現像液にしたり、写真を太陽の下に干したり、重ねて外に放置したりしています」
そうすることで、天候によるダメージや、動物が踏んでできた破れなど、人為的でないエラーを作れる。自然との共作で森を閉じ込めた写真は、作り出されたエラーをあえて生かすために、現像から自ら手がけている。ここでもまた暗室の中から浮かび上がる想像を超えた風景が、写真家を知り得ぬ世界へと招き入れるのだ。
本人すら想像しない、新しい風景を求める旅へ
そして旅は、再び2023年のアメリカへ。最新のプロジェクト「COLORADO(仮)」は、コロラドの山の上の村、ネダーランドに住む夫婦を追うドキュメンタリー。自然と無理のない理想の関係を築きながら暮らす2人に共感した。
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人間と自然とが共存する生き方として理想的な関係性を考え、コロラドに住む夫婦の暮らしを撮ったシリーズ。会社勤めをしながらも、ヒッピー的なマインドを持つ彼らの山の上での暮らし。自然を愛しながらも問題に対してストイックになりすぎない、その生き方を美しい山の四季とともに追いかける。写真はすべて制作中のスナップ。
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毎日森に入ってキノコやワイルドストロベリーを摘み、飲み物となる湧き水を汲んで、たまに街で買い物をしている彼らの自然観を、3年ほどの時間を使い、四季を通して追いかけようとしている。
「『STRANGER』の旅の中で知った彼らに、ようやく出会えたのが今年。実際に家に居候させてもらいながら、自分が理想としている自然との距離感、その関わり方をしている人たちのライフスタイルを、今度は自分もアメリカに住みながら、しっかり時間をかけて追いかけていきたいと思っています」
これまでアメリカを知ろうとしながらも掴(つか)み取れずこぼれ落ちてしまったものを追求し、山や自然を愛する写真家として作品を介して社会とどうつながるべきかを考える。ライフワークとしての制作の中で、たくさんの人々や風景と出会いながら育てられた“想像を超える旅”への好奇心が辿り着く先は、まだ誰にもわからない。
「好きなことはいろいろありますが、写真だけなんですよね。山も大好きだけどヒマラヤに登りたいかと言われればそうでもないし。でも、写真だけは徹底的に突き詰めたいと思えるほど面白いんです」