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写真家・平野太呂。ハウスメーカーとつくる家

「家は普通がいい」。かねてからそう言っていた写真家の平野太呂が、大手ハウスメーカーで家を建てた。でもその家は、普通に見えて普通じゃない、こだわりがぎっしりと詰まった家。建てるにあたり、大切にしたことは何か。家にまつわる本当のところ、を聞きました。

初出:BRUTUS No.892「居住空間学2019」(2019年5月1日発売)

photo: Taro Hirano / text: Tami Okano

関わってつくってこそ、自分たちの家になる

まず最初に、誤解を解いておかなければならないのは、たぶん、多くの人が、ハウスメーカーと家をつくる、となると、ほとんど、何も、自分たちの好きなようにはできない、と思っているだろうこと。間取りは自由、床材も建具も選べます、と言ったって、せいぜい選べるのはAかBの2択くらいで、本当に好きなものは使えないし、細かな希望なんて聞いてもらえないんでしょ、と思っていること。

違います。できます。ものすごく、頑張れば。

写真家・平野太呂は、大手ハウスメーカーで、人生2度目の家を建てた。造作家具はすべて、友人であり、信頼する家具メーカー〈MOBLEY WORKS〉の鰤岡力也に依頼、ドアはアメリカの量産品にペンキを塗って現物支給、ドアノブやスイッチパネルなどのパーツは、アメリカのホームセンターで買い集めたものを取り付けてもらったのだとか。部屋の配置に始まり、外壁の左官の塗り具合まで、メーカー任せにすることなく、理想の家を手に入れた。

そんなにこだわりがあるんだったら、建築家と建てればよかったんじゃないの?

「ハウスメーカーにした一番の理由は、この土地の販売条件として、最初から指定されていたからなんだけど、それでもいい、いや、むしろそれがいい、と思ったのは、そもそも家は、シンプルな箱でいいと思っていたから。妻は、家は使いやすいこと、動線が大事だとずっと言っていて、おしゃれだけど住みにくいのはイヤだというのが共通の思い。例えば、建築家の奇抜なアイデアみたいなものは、まったくいらないと思っていたし、建築家の作品に住みたいと思ったこともなかった」

仕事で家を撮ることも多く、建築家との家づくりに触れることも多いが「よく、すべて建築家にお任せしましたって話を聞くけれど、何も自分たちで決めていないなら、それって、建売を買うのと同じなんじゃないかなぁ。任せた方がいいこともあると思うけど、僕らはしっかりとした箱の中をどう使うか、自分たちで話し合って決める方がよかった」。

自分たちで決める。その言葉は、無限の自由にも似て響きもよいが、家づくりには、気の遠くなるような膨大な決定事項がある。判断するための膨大な勉強量も、現場にコミットするなら、段取り力みたいなものも必要になる。

「そこは、やっぱり、これまで仕事で培った経験が役に立ったかもしれません。訪ねた家の良かったところや具体的な情報が自分の中に溜まっていたから。あと、施主の現物支給はやっぱり、基本、嫌がられるから、この順番で、こうやってやれば、できるはず!っていう裏取りをしてからメーカーに提案するようにしました。

何がしたいのかを、ちゃんと伝えるのはもちろんだけど、相手があんまり驚かないタイミングを計るのも大事かなぁ。大工さんが前向きな人で、“こんなもの付けたことないけど、やってみよう”って言ってくれたのも助かりました。家も、もの作りなんだよなって、関わって思ったし、とことん関わったからこそ、自分たちの家だと感じられているんだと思います」

間取りは1階にリビング・ダイニングとキッチン。玄関の土間続きのコーナーにシューズクローゼットを設け、ちょっとした外遊びの道具も置けるようになっている。その玄関の延長に平野の書斎。リビングとは少し距離を置き、独立して仕事ができるようになっている。2階に寝室と子供部屋。バスルームと洗濯室も2階に設けた。

「子供が孤立しないよう、必ずリビングを通ってから個室に行くようにしたかったし、1階を寝床にすると、寒いんだよね。最初の家は2階がリビングで、1階はほとんど使わなかった。家族がいるリビングが暖かいのに、寒い1階に寝に行くのは嫌なものです」

お風呂と寝室は同じ階がいい、というのも前の家からの学びで、40代になり、多少生活を重ねてきたからこそ、決められることも多かったという。そもそも、敷地選びの基準は、子供たちが学校に通いやすい場所であることだった平野家。子供たちと密に暮らせる、まずはこの先10年、15年くらいを無理なく、思い切り楽しみたいという願いが根本にある。

「同時に、僕はもう少し先、家族みんなが大人になったときのことも考えていて、日当たり良好の2階リビングを良しとしなかったのはそのため。光をきれいに感じる、少し暗い、落ち着いたリビングやダイニングが、僕らのこれからを支えてくれると思うから」