窓が気づかせてくれるのは、移ろう光の美しさ
築70年の日本家屋に、ヨーロッパ風の押し出し窓と日本の障子が並び、ステンドグラスをはめた窓と茶室のような竹の窓が同居する。窓がこんなにも自由なものだなんて。
「この家は、私が欲しい空間や機能を自分で作って使ってみるための実験の場です。なかでも大切なのが窓。なぜなら、ガラスを作る者にとって重要な“光”に関わる装置だから」
ガラス作家のピーター・アイビーさんがそう話す。富山の田園地帯に立つ民家を手に入れ、DIYで改築を始めたのは2015年頃だ。解体した当初、壁は下地が剥き出しで窓ガラスもなし。雨風上等な吹きさらしの室内にハンモックを持ち込んで、寝泊まりしながら光の移り変わりや風の通り道を学び、プランを練った。
「朝はどの高さから光が差し込むのか、どこから吹く風が心地よいのか。既存の開口部を生かすのではなく、どの場所にどんな窓が必要かを、イチからじっくり考えました」
最初の大きな実験は、屋根を壊して採光窓を開けたこと。古い民家は室内が暗く、美しい梁(はり)や柱も見えづらい。屋根の一部を一段上げ、ハイサイドライトを設けることで、家の真ん中にも光が届くようにした。
さらに、家族がくつろぐリビングには、窓から見える景色をコントロールできる障子を設置。ガラスの展示会も行うギャラリーには自作のステンドグラスの窓を採用し、キッチンには庭を眺めながら料理できる大窓を設置して……と、それぞれの場所にふさわしい窓を考えた。
「庭の池に反射した朝日がキッチンの窓に映り、キラキラ輝く瞬間がとても気持ちいい。夕方、リビングに差し込む光がだんだんぼやけてきて、気づいたらあたりが薄暗くなっているのも好き。家のどこで過ごしていても、窓を通して光の移り変わりを感じられるのがうれしいんです」
その感覚を「エフェメラルなもの」とピーターさんは言う。つかの間の、とか、儚(はかな)いもの、という意味だ。
「窓ガラスに反射した光は美しい姿を見せるけれど、一瞬で変化して消えてしまう。窓ガラスの向こうの景色はユラユラと移ろいやすく、こことは別の時間が流れる別の世界のように見えたりもします。それは私が目指すガラス作品にも言えること。目の前に確かに存在するのに、限りなく薄くて繊細で、眺めているうちに世界と同化していくようなものを作りたい。どうしたら、そのエフェメラルな美しさを自分のものにできるんだろう。窓を眺めながら、いつもそんなことを考えています」