「美術館が嫌いだ」と、ポルトガルの鬼才は言った
ポルトガルの映画監督、ペドロ・コスタの個展が東京都写真美術館で開催中だ。展示空間は真っ暗。細い通路は迷路のようで、壁や吊り下がった布に映像が投影される。
コスタは本展覧会の作品を、アートではないと強調する。
「実は美術館が嫌いなんです。特に現代の、アートのために存在しているようなアートにはリアリティが感じられない。例えば小津(安二郎)作品の静謐(せいひつ)な世界なら、観客はいつしかそこに自分の家族や過去に繋がるものを見出し、自分事として楽しむことができる。それは実はそこに描かれているものが、私たちが日々向き合っている現実だからなのです。
今は誰もが有名になることばかり考えていて、カンヌやオスカーでさえもそのための手段になってしまっている。そうではなくて、毎日コツコツと自分の作業場に通って、少しでも表現を前に進めようとすること。そこにこそ現実があると思うのです」
展示のタイトルは『インナーヴィジョンズ』。スティーヴィー・ワンダーのアルバム名が由来で、人間の内面と社会の繋がりへの意識が感じられる。リアリティを追い求めてきた鬼才のまなざしを目撃したい。
