Love

現れる模様は変幻自在!自然が描く芸術、模様石を知っていますか?

ゼブラ模様に縞模様、目玉模様に幾何学模様……⁉とてもじゃないけれど、自然が作り出したとは思えない奇妙な造形の石たち。これらは「模様石」と呼ばれるジャンルで、これもまた収集家の多い石なのだ。色も形も決まりがないため、集めだしたらキリがない。その不思議な石がどのように生まれるのか、模様がいかにして描かれるのか。石に触れ、知ることで、地球の生命活動を感じることができる。

photo: Shinsaku Yasujima

なぜ、ここまで不思議でいびつな模様になるのか?

キラキラと輝く宝石のような結晶鉱物とは異なる、模様石と呼ばれる石を知っていますか?そんな奇妙な石の魅力を、石好きデザイナーのマイク・エーブルソンさんと、世界的に知られる模様石コレクターの山田英春さんが語ります。山田さんのコレクションも必見!

〈ポスタルコ〉デザイナー・マイク・エーブルソン、装丁家・山田英春
山田さんのコレクションを眺め、石の話をする2人の顔は少年のよう。山田さんの手にはドラゴンズ・エッグと呼ばれる模様石。

マイク・エーブルソン

こんなにたくさんの模様石をお持ちなんですね。見たことない模様がたくさん!いつから集めているんですか?

山田英春

もともと特別に石が好き、というわけではなかったんですよ。22歳の時にフランスの社会学者ロジェ・カイヨワが書いた『石が書く』という本に出会ったのがきっかけです。鉱物写真が満載された、石の模様と人間の想像力に関する本で、そこで論じられた“石の模様は人間が作り出す芸術より先にあるものだ”という考えに共感し、その魅力に取り憑かれてしまいました。

マイク

興味深い考えですね。確かに石を見ていると、完成された美とは私たち人間が創るものではなく、もっと奥底に自然とあるものだと否応なく思わされます。

山田

それで本に載っている石を眺めているだけでは満足できなくなり、アメリカのコレクターやお店を回って、模様石の収集を始めました。

マイク

なるほど。僕は子供の頃から石を見つけるのが好きで、そのまま大人になってしまった(笑)。

山田

結晶鉱物もお好きですか?

マイク

実はあまり持っていないんです。模様派ですね。結晶も、もちろん美しいと思うのですが、完成されすぎている気がして。僕は偶然が生む、ちょっといびつなものが好き。

生成の環境によって模様は変幻自在に現れる

マイク

泥のボールのようなこれとか素敵です(1)。ユタ州のものですよね?

セプタリアン・ノジュール
(1)黄色のカルサイトの結晶が詰まったセプタリアン・ノジュール。中に派手な模様を有するものは、ドラゴンズ・エッグなどと呼ばれる。アメリカ・ユタ州のものの多くは野球ボールからサッカーボール大になる。

山田

はい、セプタリアン・ノジュールという石です。貝などの死骸の周りに化学反応で泥や砂が付着し、ボールのように大きくなるんです。乾燥やほかの作用によってその中に亀裂が入り、そこに炭酸カルシウムが染み込んで模様になる。

マイク

ほんとだ!中に貝の化石の跡がありますね。これが核となり周りが肥大化していくんですね。ニュージーランドの海岸などに大きいものが転がっていますが、生成されるのに何万年とかかるのでしょうか。

山田

そう思われていたのですが、最近、名古屋大学の先生が“意外とすぐできる”という論文を出して話題になりました(笑)。内側の色や柄は長い時間がかかるようですが、外側のボールは数年単位で大きくなるものもあるようです。

マイク

このゼブラロック(2)もいいですね。白いベースの石に入るリズミカルな縞模様が美しい。自然石とは思えない造形にそそられます。

ゼブラロックと呼ばれる堆積岩
(2)ゼブラロックと呼ばれる堆積岩。雨が多い時期とそうでない時期に堆積した層が重なり、鉄分の多い層が違う色になることで模様となる。軟らかい石灰質のものと、鉱物粒子を含むやや硬いものがある。

山田

オーストラリアの堆積岩を切り崩したもの。数ある模様石の中でも異彩を放つビジュアルです。ビジュアル的には、このアイ・アゲート(3)も変わっていますよ。

縞模様のメノウ
(3)均整のとれた同心円の縞模様のメノウは、アイ・アゲートと呼ばれる。こちらはブラジル産で、アメリカ人の有名コレクター、ローレンス・コンクリンさんの所蔵品だったという。

マイク

メノウ(=アゲート)って縞模様が複雑に絡み合っているイメージですが、こんなに綺麗な目玉模様にもなるんですね。小さな目玉が無数にあるこれもメノウですか?

山田

それはオーシャン・ジャスパー(4)です。ちなみにメノウは溶岩の中でできるものが多い。流れ出た溶岩が冷え固まってできた空洞に熱い地下水が流れ込み、水分中に含まれる鉱物の成分が育って層になる。熱水の圧力や温度変化により、水晶になったりメノウになったりするんです。このメノウ(5)は中に水晶がついていますね。

マイク

水晶とメノウって同じ成分なんですね。“空間”に合わせて成長することでユニークな形に育つメノウの多様性が好きで、〈ポスタルコ〉でプロダクトに使用しています。例えば、これはモス・アゲート(6)を使ったキーホルダー。光を通すとより綺麗に出る、苔のようなインクルージョン(内包物)が気に入っています。

モス・アゲート
(6)マイクさん所有のモス・アゲート。これをカットし磨いてキーホルダーとして販売している。「鍵のように触り心地の悪いものも、気持ちのいい石と組み合わせれば持っているのが嫌じゃなくなる」とマイクさん。

山田

それは主に鉄の結晶ですね。

マイク

石っぽさを残すように仕上げたところもポイント。職人さんに“磨きすぎないで”と説明するのが難しかった。ほかにも日本の佐渡のジャスパーや十勝の黒曜石を使って製作しています。

山田

津軽の錦石(ジャスパー)もいいのではないでしょうか。赤とか黄色とか、カラフルですよ。

マイク

それは要チェックですね!

欧州貴族もこぞって愛でた偶然が生む究極の芸術

マイク

今日見せてもらった中でも衝撃だったのが幾何学模様の石(7)。無数の直線の組み合わせで描かれた抽象画のような、見事な芸術。

フィレンツェの石「アルノーの緑」
(7)抽象画のようなフィレンツェの石「アルノーの緑」。2011年のヴェネチア・ビエンナーレ国際美術展に、アルノー川上流で採取された約800点の石が、作者のいない芸術作品として出品されたこともある。

山田

それは「アルノーの緑」と呼ばれるフィレンツェの石灰岩です。アルノー川上流域で採れるユニークな模様の石灰岩を断裁することで現れる模様です。切る場所を変えれば全く違う模様になるので、まさに偶然が生むアートと言えます。

マイク

深みのあるグリーンが本当に美しくレイヤーになっている。僕はスピリチュアル的なものはあまり好きじゃないけれど、これは生き物としてのパワーを感じますね。

山田

同じフィレンツェの石でも、このパエジナ・ストーン(8)も素晴らしい。まるで自然の風景を写し取って描いたかのような、壮観な景色が広がっています。大航海時代に欧州の貴族間で流行した「驚異の部屋」でも、世界中で集められた珍奇品と一緒に重宝されたものです。

フィレンツェ近郊で採れる「パエジナ・ストーン
(8)フィレンツェ近郊で採れる「パエジナ・ストーン(風景の石)」。石灰岩が、形成の過程で亀裂が入り、鉄分が染み込むことで景色のような模様を作り出すといわれている。産地ごとに風景の特徴があるのも面白い。

マイク

収集したくなる気持ちはよくわかります。人間の知らないところで、こんなに美しいものが生まれていることが不思議でならない。普通は覗けない地球の中のことを教えてくれる“手紙”のような存在とも言えます。石を通して、地球のことをちょっとだけど知ることができる。

山田

模様石の魅力は、色々なものが混ざってできる“偶然性”にあると思います。昔アメリカ人から半分に断裁されたスコットランドのメノウを買ったことがあって。運命のような偶然だったのですが、その数年後にスコットランドの夫婦からもらったメノウが、なんとその片割れの石だったんです。世界中の人々の手を渡って、僕のもとで一つに戻った。嘘みたいな話でしょう?

マイク

それはすごい!どの石にも果てしない物語があるんですね。

ババグーリ、ゼブラロック、オーシャン・ジャスパー、セプタリアン・ノジュール、セプタリアン・ノジュール、雨花石、アルノーの緑、ロイヤル・インペリアル・ジャスパー、クレイジー・レース・アゲート
1:ババグーリ(インド、ラジャスタン地方の川で採れるメノウ)/2:ゼブラロック(オーストラリア北部、カナナラ近郊の堆積岩)/3:オーシャン・ジャスパー(マダガスカル島北部産のメノウとジャスパー)/4:セプタリアン・ノジュール(モロッコ、ジェラダ産の方解石の入ったもの)/5:セプタリアン・ノジュール(フランス、アヴィニョン近郊の重晶石の結晶が入ったもの)/6:雨花石(中国、南京近郊で採れるメノウと珪化木。これは木の根の珪化木)/7:アルノーの緑(イタリア、フィレンツェ近郊産の石灰岩)/8:ロイヤル・インペリアル・ジャスパー(メキシコ、ハリスコ州産のジャスパー)/9:クレイジー・レース・アゲート(メキシコ、チワワ州産のメノウ)